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こんな日米FTAなんていらない

野球なら日本のコールド負けだ

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

拡大ライトハイザー米通商代表(右)に迎えられる茂木敏充経済再生相=2019年6月13日、ワシントン

日本は交渉の入り口で躓いた

 それなのに、これまでの日米交渉と同じく、日本側が譲歩を重ねる交渉となっている。

 まず、二国間交渉をすると農産物でTPP以上の譲歩を要求されると勝手に思い込み、TPP以上の譲歩を防止することを最大の交渉目標としてしまった。

 この結果、交渉の入り口の段階となる2018年9月の日米首脳の共同声明で、TPPや日EU自由貿易協定などこれまでの交渉で譲歩した以上のことはできないと主張し、逆にそれまでの譲歩をアメリカに認めてしまった。

 アメリカにそもそも農産物の関税削減を認めるかどうかということではなく、TPP並みの譲歩以上は許してほしいということになってしまったのである。アメリカにしてみれば、日本からは、最低TPP並みの譲歩は取れると思っている。

 日EU自由貿易協定では、EUが関心を持っているチーズなどについてTPP以上の約束をした。アメリカは勝手にTPPから離脱したのに、これも含めて日本側に譲歩を迫っている。

 TPP11での輸入割当枠やセイフガード発動水準はアメリカの輸出実績を加えたままの水準になっているため、アメリカがTPP11に戻ってこないことがはっきりすれば、アメリカの輸出分は差し引かなければならず、そのための交渉をオーストラリア等と行わなければならない。

 アメリカにTPPプラスの追加的な譲歩をするなら、TPP11に付合ってくれたカナダ、オーストラリア、ニュージーランドにも同様の条件を認めざるをえなくなる。日本の農業界にとっては、これはさらなる譲歩となり受け入れられないと反発するだろう。

TPP並みの譲歩も見せないトランプ政権

 米韓自由貿易協定で韓国車に対するアメリカの関税は2017年に撤廃されたのに、TPPでは、アメリカの2.5%の自動車の関税撤廃に25年もかかるという譲歩を強いられることになった。(具体的には15年目から削減開始(2.25%)、20年目で半減(1.25%)、22年目で0.5%まで削減、25年目で撤廃)

 25%のトラック関税は、29年間維持された上で、30年目にようやく撤廃される。日本政府は自動車部品について米韓自由貿易協定で韓国が勝ち取ったものを上回る87.4%の関税が協定発効後に即時撤廃されると説明した。

 しかし、アメリカに対して日本が自動車で支払っている関税は約1千億円、即時撤廃される自動車部品の関税は200億円に過ぎないものだった。つまり、TPP交渉で、日本は自動車について満足できる結果を得られなかったのである。

 日本が圧倒的に有利な立場にいる以上、日米FTA交渉では、自動車関税については、TPP並みの25年後の撤廃ではなく、即時撤廃を要求すべきだった。

 しかし、アメリカは、自らは農産物についてTPP以上を要求しながら、自動車についてはTPP並みの関税引き下げという日本側のささやかな要求さえ拒否している。

 7月17日のロイター通信は、現在ワシントンで行われている日米協議について、次のように報じている。

 自動車業界のある関係者によると、日本が米国に対して農産品の市場を開放し、その見返りに米国が日本製の自動車部品の一部について関税を削減するという内容の合意となる可能性がある。(中略)米国が自動車部品の関税削減で合意した場合でも、米議会の承認は必要とならないとみられる。大統領は関税率が5%未満の製品の関税を撤廃あるいは削減する権限があり、自動車部品の大半は関税率が約3─6%にとどまる。

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筆者

山下一仁

山下一仁(やました・かずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1955年岡山県笠岡市生まれ。77年東京大学法学部卒業、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、農村振興局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。10年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。20年東京大学公共政策大学院客員教授。「いま蘇る柳田國男の農政改革」「フードセキュリティ」「農協の大罪」「農業ビッグバンの経済学」「企業の知恵が農業革新に挑む」「亡国農政の終焉」など著書多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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