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ブレグジットに楽観的な英国人?その理由は……

強行離脱派のジョンソン氏への懸念は少なく、環境改善への期待も根強い

武田淳 伊藤忠総研チーフエコノミスト

ジョンソン氏への懸念が少ない二つの理由

 ロンドンではなぜ、ジョンソン氏への懸念がさほどでもないのだろう。現地で聞いた話を整理すると、その理由はおおむね以下の二つの集約できる。すなわち、
1、強硬派のジョンソン氏も、首相になれば現実路線に転じて円滑な離脱を目指すはずだ
2、「合意なき離脱」でも悪影響は案外大きくないだろう
である。

 1について、もう少し詳しく説明すると、党首選におけるジョンソン候補の「合意なき離脱も辞さない」とする主張は、あくまでもEU離脱派の保守党議員向けであり、首相になり離脱派と残留派が拮抗(きっこう)する国民世論を前にすれば、より現実的な道を選ばざるを得ないだろう、というのである。実際、党首選が進むにつれ、ジョンソン氏は10月末の離脱を目指すという目標は変えないものの、「合意なき離脱」ではなく、EUとの交渉による円滑な離脱の可能性を探る姿勢を強めている。

 ジョンソン氏は、ロンドン市長時代の左派的なスタンスからEU強硬離脱という右派的なスタンスへと立ち位置を変化させており、特定の主張に固執せず、柔軟だという指摘もある。こうした彼の特徴が、やや根拠に欠ける安心感を国民に与えているのであろう。

 2の「合意なき離脱」でも影響はないという見方の根拠としては、
1、悪影響の試算がマイナス面だけであり過大
2、予測不能な部分が多いため、思ったほど悪くならない可能性がある
3、事前に悪影響をある程度織り込んでいるため、事後に反動でプラスとなるものがある
の3点が挙げられる。

 確かに、1の過大推計はこの手の試算によくあることである。たとえば大イベントの経済効果試算などでは、プラス要因ばかりを積み上げ、消費者がイベント参加で使うお金を捻出するために、実は節約するといったマイナス面を十分に考慮しないことが多い。

 2の予測不能に関しても、予想から大きく上振れすることも下振れすることもあるということであり、上振れにのみ注目すれば、そういう考えもできるのだろう。

 3の反動についても、不透明感から投資は抑制気味のようであり、離脱後に動き出すものはあろう。とすれば、思ったほど悪くはならないという程度は言えるのだろうが、希望的観測の域を脱していないようにも見えないではない。

根底にあるブレグジットへの期待

拡大Ink Drop/shutterstock.com
 ある大手会計系コンサルティングファームによると、2千社のCEOに対して行った調査で、イギリスは最近もなお、投資対象国としての人気ナンバーワンを維持しているという。ポンド安が投資の魅力を高めている面があり、こうした結果を踏まえ、ブレグジット後もイギリスへの投資が加速するのではという見方もある。

 また、ブレグジットはそもそもイギリスが抱える課題を解決するために実施するのだから、一時的に混乱しても、長い目で見れば悪いはずがないという声もあった。これは、日本人など部外者が見落としがちな視点なのかもしれない。

 もともとブレグジットを目指した背景には、移民の流入で生活が圧迫される層の存在があり、移民流入をもたしたと彼らが考えるEUルールへの根強い反発がある。裏返せば、EUルールから解放されることが自らの生活改善につながるという期待感が、ブレグジットの原動力になっている。

 現地のエコノミストからは、移民流入は経済成長にはつながったものの、同時に貧富の格差拡大をももたらしたとも指摘された。移民という外からの労働力に頼り過ぎると国内の労働力のレベルが上がらず、全体として生産性の上昇が抑制されて国際競争力が下がるという声も聞かれた。

 こうしてみると、楽観論の根底に、ブレグジットによってもたらされるであろう環境改善への期待があるのは確かだ。離脱やむなしとなったからには、それを信じる。円滑な離脱であればなお良しということなのだろう。

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筆者

武田淳

武田淳(たけだ・あつし) 伊藤忠総研チーフエコノミスト

1966年生まれ。大阪大学工学部応用物理学科卒業。第一勧業銀行に入行。第一勧銀総合研究所、日本経済研究センター、みずほ総合研究所の研究員、みずほ銀行総合コンサルティング部参事役などを歴任。2009年に伊藤忠商事に移り、伊藤忠経済研究所、伊藤忠総研でチーフエコノミストをつとめる。

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