女性・外国人採用だけでイノベーションは起きない
日本成長の道は人事システム改革。年功序列でなく市場価格を反映した報酬の時代へ。
村上由美子 OECD東京センター所長

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ダイバーシティーの重要性が叫ばれ始めて久しい。多くの日本企業が、女性や外国人などの多様な人材活用を積極的に推進する方針を打ち出している。イノベーションを促進するためには多様な発想が必要であり、そのためにはバックグランドの異なる人材が切磋琢磨する環境を整えるべきとの議論が盛んだ。実際に、日本企業における女性や外国人の採用はこの数年急増している。
しかし、そのような企業では本当にイノベーションが起こっているのか。ダイバーシティーは、利益を生み出しているのか。ダイバーシティーがイノベーションを後押しし、それが企業の成長につながるという好循環を具現化するために、日本企業は何をすべきであろうか。
ダイバーシティーが目的化していないか?
OECD(経済協力開発機構)は、イノベーションに必要な環境条件をインデックス化し、国際比較している。資金力、技術力、国民の教育レベル、通信インフラなどの主な項目のほとんどで、日本はOECD平均よりかなり高い水準に位置している。一方、他の経済先進諸国と比較して圧倒的に劣っているのは、産業や国境の垣根を超えて繋がる力。例えば、研究開発を異業種の混成チームや外国人と行うことが極端に少ない。日本は世界でもトップレベルの特許大国だが、外国との共同特許申請は、OECD加盟国中最下位レベルである。将来性の高い技術分野における特許申請で世界トップ3に入る実力を持っているにもかかわらず、そうした技術を事業化、あるいは商品化する力は、OECD平均以下という評価である。
ここから見えてくるのは、意思決定のプロセスにおける価値観や発想の多様性の欠如である。ダイバーシティーが目的化している組織では、例えば女性採用の数値目標は達成しても、彼女たちが意思決定に影響を及ぼす立場で活躍しているとは言いがたい状況にあるであろう。非正規雇用や管理職以下の女性が増えても、取締役会の顔ぶれはほぼ50代以上の日本人男性のみという企業が多く存在しているのではないだろうか。異質な思想が共存し、その化学反応から生まれる想定外のシナリオこそ、企業がイノベーションを生むためには必要だ。多様な思想の持ち主の声が、意思決定に反映されなければ、いくらダイバーシティーの数値目標を達成しても意味がない。ダイバーシティーは目的ではないはずだ。

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