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女性・外国人採用だけでイノベーションは起きない

日本成長の道は人事システム改革。年功序列でなく市場価格を反映した報酬の時代へ。

村上由美子 OECD東京センター所長

ダイバーシティー拡大Syda Productions/Shutterstock.com

 ダイバーシティーの重要性が叫ばれ始めて久しい。多くの日本企業が、女性や外国人などの多様な人材活用を積極的に推進する方針を打ち出している。イノベーションを促進するためには多様な発想が必要であり、そのためにはバックグランドの異なる人材が切磋琢磨する環境を整えるべきとの議論が盛んだ。実際に、日本企業における女性や外国人の採用はこの数年急増している。

 しかし、そのような企業では本当にイノベーションが起こっているのか。ダイバーシティーは、利益を生み出しているのか。ダイバーシティーがイノベーションを後押しし、それが企業の成長につながるという好循環を具現化するために、日本企業は何をすべきであろうか。

ダイバーシティーが目的化していないか?

 OECD(経済協力開発機構)は、イノベーションに必要な環境条件をインデックス化し、国際比較している。資金力、技術力、国民の教育レベル、通信インフラなどの主な項目のほとんどで、日本はOECD平均よりかなり高い水準に位置している。一方、他の経済先進諸国と比較して圧倒的に劣っているのは、産業や国境の垣根を超えて繋がる力。例えば、研究開発を異業種の混成チームや外国人と行うことが極端に少ない。日本は世界でもトップレベルの特許大国だが、外国との共同特許申請は、OECD加盟国中最下位レベルである。将来性の高い技術分野における特許申請で世界トップ3に入る実力を持っているにもかかわらず、そうした技術を事業化、あるいは商品化する力は、OECD平均以下という評価である。

 ここから見えてくるのは、意思決定のプロセスにおける価値観や発想の多様性の欠如である。ダイバーシティーが目的化している組織では、例えば女性採用の数値目標は達成しても、彼女たちが意思決定に影響を及ぼす立場で活躍しているとは言いがたい状況にあるであろう。非正規雇用や管理職以下の女性が増えても、取締役会の顔ぶれはほぼ50代以上の日本人男性のみという企業が多く存在しているのではないだろうか。異質な思想が共存し、その化学反応から生まれる想定外のシナリオこそ、企業がイノベーションを生むためには必要だ。多様な思想の持ち主の声が、意思決定に反映されなければ、いくらダイバーシティーの数値目標を達成しても意味がない。ダイバーシティーは目的ではないはずだ。

ダイバーシティー拡大oneinchpunch/Shutterstock.com


筆者

村上由美子

村上由美子(むらかみ・ゆみこ) OECD東京センター所長

上智大学外国語学部卒、スタンフォード大学院修士課程(MA)、ハーバード大学院経営修士課程(MBA)修了。その後約20年にわたり主にニューヨークで投資銀行業務に就く。ゴールドマン・サックス及びクレディ・スイスのマネージング・ディレクターを経て、2013年にOECD東京センター所長に就任。OECDの日本およびアジア地域における活動の管理、責任者。政府、民間企業、研究機関及びメディアなどに対し、OECDの調査や研究、及び経済政策提言を行う。ビジネススクール入学前は国連開発計画や国連平和維持軍での職務経験も持つ。ハーバード・ビジネススクールの日本アドバイザリーボードメンバーを務めるほか、外務省、内閣府、経済産業省はじめ、政府の委員会で委員を歴任している。著書に「武器としての人口減社会」。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです