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女性・外国人採用だけでイノベーションは起きない

日本成長の道は人事システム改革。年功序列でなく市場価格を反映した報酬の時代へ。

村上由美子 OECD東京センター所長

イノベーションを生むダイナミックな職場環境とは

 日本経済全体を見ても、同様の問題が生じている。第二次安倍内閣が経済成長戦略の柱の一つとして女性活躍推進を打ち出してから、女性の雇用は急増した。日本女性の就業率は毎年ほぼ1%ずつ伸び、今や70%近くとアメリカを上回る水準に達している。一方、男女の賃金格差はほとんど改善が見られず、OECD加盟国中最下位レベルの約25%のままだ。賃金の安い労働力としての女性活用が狙いであったのなら、それは一定の成果を収めたかもしれない。

 しかし、このような状況がイノベーションを促進する経済・社会環境に貢献しているとは到底言いがたいであろう。ちなみに、OECDの国際成人力調査によると、日本人女性の数的思考力と読解力は、世界の女性と比較して最も高いという結果がある。このような高度な教育レベルを持つ日本人女性に、男性と同じ雇用機会が与えられ同一賃金が払われれば、日本のGDPの潜在成長率は現在のほぼ倍のレベルまで改善するという試算さえある。

ダイバーシティー拡大Female share of seats on boards of the largest publicly-listed companies, 2017 Source: OECD Gender database.

 女性活躍に関してもう一つ重要な視点がある。高度経済成長期に確立した人事慣習が強く残る環境で、管理職に昇進した女性は少数だ。そんな女性管理職者は多くの場合、男性のような働き方をしなければ昇進できなかった。転勤や長時間労働をこなすということは、プライベートな時間を犠牲にすることを意味した。専業主婦を持つ男性と異なり、女性の場合は仕事と家庭の二者択一を迫られるケースも多いはずだ。ライフスタイルが男性化した女性からの発想は、男性と類似したものになる可能性が高まる。

 思想のダイバーシティーが重要であるいう観点では、むしろ性別や国籍そのものよりも、思考回路や感受性、あるいは価値観などにおける多様性に意味がある。入社時点でバックグランドの異なる人材を多く採用しても、単一的な働き方を長年経験するうちに、金太郎飴のように均一な人材しか残らないとなると、イノベーションを生むダイナミックな職場環境は期待できない。

ダイバーシティー拡大sdecoret/Shutterstock.com

高度技術人材を世界中から日本に呼び込む条件

 外国人の活用に関しても、多くの課題が残る。少子高齢化に伴う労働者不足に対応するというのが外国人労働者受け入れの議論の中心だが、イノベーションを促進する多様な人材の確保が目的であれば、高度技術人材を世界中からいかに日本に呼び込むかを真剣に議論すべきであろう。

 例えば、世界的に不足しているAIの専門知識を持つ外国人が、日本企業で働きたいと思う条件は何であろうか。年功序列に縛られた硬直的な職場環境では、成果に基づいた評価が期待できないと敬遠されてしまう。年齢、勤続年数、国籍、性別などにとらわれず、個々の能力が客観的に評価されることが、彼らにとって就職先を選択する際の重要な物差しになる。そして当然ながら、報酬は世界の労働市場が基準になるため、現行の日本企業の年功序列の報酬制度では、優秀な人材を外国から採用することができない。

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筆者

村上由美子

村上由美子(むらかみ・ゆみこ) OECD東京センター所長

上智大学外国語学部卒、スタンフォード大学院修士課程(MA)、ハーバード大学院経営修士課程(MBA)修了。その後約20年にわたり主にニューヨークで投資銀行業務に就く。ゴールドマン・サックス及びクレディ・スイスのマネージング・ディレクターを経て、2013年にOECD東京センター所長に就任。OECDの日本およびアジア地域における活動の管理、責任者。政府、民間企業、研究機関及びメディアなどに対し、OECDの調査や研究、及び経済政策提言を行う。ビジネススクール入学前は国連開発計画や国連平和維持軍での職務経験も持つ。ハーバード・ビジネススクールの日本アドバイザリーボードメンバーを務めるほか、外務省、内閣府、経済産業省はじめ、政府の委員会で委員を歴任している。著書に「武器としての人口減社会」。