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ボリス・ジョンソンとは何者か?

ブレグジットの行方は?英国は合意なき離脱へ進むのか?

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

拡大英国の与党・保守党の党大会で演説するジョンソン前外相=2018年10月2日、英中部バーミンガム
 ボリス・ジョンソンがイギリスの首相に就任した。人気の高い政治家であることは事実であるが、私生活も含め何かと問題の多い人物である。

 私には、アメリカ大統領であるトランプとの共通点が多いように思われる。トランプの元顧問弁護士で懐刀だったマイケル・コーエンが米国連邦議会でトランプを人種差別主義者(a racist)、詐欺師(a con man)、ペテン師(a cheat)などと激しく非難したが、これはそのままボリス・ジョンソンに当てはまりそうだ。

 それなのにトランプ同様人気があるのは、彼も特定の聴衆が聞きたいことに訴えるポピュリストだからである。

ブレグジットの遠因を作った

 人々の関心を引くためには、間違ったことでも平気で書いたり話したりすることも似ている。むしろフェイクニュースという点では、ボリス・ジョンソンのほうがトランプよりも先輩格である。

 EU本部があるベルギー・ブラッセルで英紙デイリー・テレグラフ(保守系)の特派員だった1990年代前半、ボリス・ジョンソンはEUを中傷するフェイクニュースをロンドンに書き送っていた。

 当時のEUの担当者たちは、あまりに馬鹿げていて読者を喜ばせるだけの娯楽的な記事だと考え、これを否定しようともまともに相手にしようともしなかった。しかし、記事が正しいかどうかを判断する材料を持たない一般の人たちは、ボリス・ジョンソンの記事を信じてしまった。

 これがイギリスの保守派にEU懐疑派を誕生させ、今回のブレグジットのきっかけになった。

 さらに、ドロール欧州委員会委員長が欧州委員会やECの権限を強化してヨーロッパを支配しようと企んでいるという彼の記事は、EC(欧州共同体)からEU(欧州連合)へヨーロッパ統合を深化させようとするマーストリヒト条約の批准をデンマークが国民投票で否決する大きな要因となったと言われている。

 ただし、一つだけ違うように思うのは、トランプは気まぐれで予想がつかないように思われるが、移民や貿易問題などについて基本的な主義・主張は一貫しているのに対し、ボリス・ジョンソンの場合には、情勢が変化すると基本的な主張まで変えてしまいそうな感じがすることである。彼はイギリス・ファーストではなく自分ファーストだという批判がある。

 7月23日のNHKニュースで、イギリスの識者が「ボリス・ジョンソンは今のところ絶対に10月31日に離脱するのだと言っているが、期限が迫ると離脱延期を言い出すだろう」と述べていることは、彼の強いポピュリスト的な性格を言い当てている。


筆者

山下一仁

山下一仁(やました・かずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1955年岡山県笠岡市生まれ。77年東京大学法学部卒業、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、農村振興局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。10年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。20年東京大学公共政策大学院客員教授。「いま蘇る柳田國男の農政改革」「フードセキュリティ」「農協の大罪」「農業ビッグバンの経済学」「企業の知恵が農業革新に挑む」「亡国農政の終焉」など著書多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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