メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

不安を和らげる「情報源の多様化」

無意識の「エコーチェンバー構築者」にならないために

小林啓倫 経営コンサルタント

拡大Photo: Shutterstock.com

主義主張が異なる複数サイトを閲覧すれば

 あなたはいま「不安」だろうか?

 ニュース系のサイトでこんな話をするのも変かもしれないが、ニュースを見れば嫌な事件や事故ばかりだ。犯罪、自然災害、政治腐敗……むしろ不安にならない方がおかしいかもしれない。

 警備会社のセコムが、毎年「日本人の不安に関する意識調査」というアンケートを行っている。2018年12月に発表された最新の調査によれば、実に2012年以来7年連続で、調査対象者(20歳以上の男女)の7割以上が「最近不安を感じている」と回答した。具体的な「不安」の内容を見てみると、1位が「老後の生活や年金」、2位が「健康」、3位が「地震」という結果になっている。

 一方で、「不安を解消するために何か対策しているか」という問いには、およそ7割が「対策していない」と答えたそうだ。漠然とした不安を抱えながら、特にこれといった対策を打たないというのも、極めて不健全な状態と言わざるを得ない。

 そこで今回は、米メリーランド大学が行った研究の成果に基づき、不安を和らげるための対策をひとつ紹介したい。それは「情報源の多様化」だ。

 メリーランド大学の研究者、ブルック・オージエとジェシカ・ヴィタクは、今年5月に共同で「デジタルニュース環境におけるカスタマイゼーションとエコーチェンバー構築の動機となる要因」と題された論文を発表した。この研究において彼らは、アマゾンのサービス「メカニカル・ターク」(同社のウェブサイトを介して、世界中にいる不特定多数の人々にさまざまな作業を依頼し、その結果もウェブを通じて得られるというもの)を利用して317人の米国人にアンケートを取り、彼らがどのようなデジタル情報源(ニュースサイトやソーシャルメディア、モバイルアプリ等)からニュースを得ているのかを調査した。そしてその結果に基づき、調査対象者を「エコーチェンバー構築者」と「ダイバーシティ(多様性)模索者」に分類した。

 エコーチェンバーとは「残響室(音が響いて残響が長い間続くように設計された部屋)」を意味する英単語なのだが、コミュニケーションの文脈で使われた場合、「同じような意見しか交わされない、閉じたコミュニティや情報ネットワーク」を意味する。つまり対象者を、「似たような(自分の考え方と一致する情報を提供してくれる)情報源にしか接しようとしない人」と「情報源の多様性を積極的に求めようとする人」に分けたというわけだ。

 研究者たちはそれと同時に、調査対象者に対して、最近の出来事についてどの程度の不安を感じているかも尋ねた。そしてエコーチェンバー構築者とダイバーシティ模索者の間で、不安感の程度に差があるかを確認したのである。

 結果はご想像の通り、多様な情報源に接しようという姿勢を持つ「ダイバーシティ模索者」の方が不安感が少ない、というものだった。オンライン上でさまざまな、すなわち主義や主張が異なる複数のニュースサイトを閲覧したり、他のユーザーと交流したりといった行為を積極的に行うと回答した人々は、現在の出来事に対する不安のレベルが低かったのである。

 この研究では、「なぜ情報源を多様化すると不安が和らぐのか」の理由までは踏み込んでいない。したがって、因果関係が逆、つまり心に余裕がある人ほど自分とは異なる意見や、自分を否定するような主張に接することも厭わないという可能性もあるだろう。とはいえ多様な意見に接しているかどうかと、現状に不安を感じるかどうかに相関関係があるというのは興味深い研究結果だ。

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

小林啓倫

小林啓倫(こばやし・あきひと) 経営コンサルタント

1973年東京都生まれ、獨協大学外国語学部卒、筑波大学大学院修士課程修了。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米バブソン大学にてMBAを取得。その後外資系コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業などで活動。著書に『FinTechが変える!金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』(朝日新聞出版)、『今こそ読みたいマクルーハン』(マイナビ出版)、訳書に『ソーシャル物理学』(アレックス・ペントランド著、草思社)、『データ・アナリティクス3.0』(トーマス・H・ダベンポート著、日経BP)など多数。また国内外にて、最先端技術の動向およびビジネス活用に関するセミナーを手がけている。

小林啓倫の記事

もっと見る