外国人とのコミュニケーションで必須な三つの配慮
島国ニッポン。「郷に入れば郷に従え」では済まない時代になった。
古屋絢子 全国通訳案内士(英語)
宗教への配慮
一般的に、日本人は自分の信仰する宗教についてあまり意識をしていない。日本人は、「無宗教」と考えている人が多い。
ただし、そのことをストレートに外国人客に伝えると、疑問を増してしまうことがある。日本では人生の大きな節目と様々な宗教的な行事が結びついており、信仰心の有無にかかわらず、ライフイベントとしてそのような行事を行うことが多いからだ。
よくある事例として「日本では生まれてから成人するまでのお祝い事は神道式、結婚式はキリスト教式、お葬式や法事は仏教式で行う人が多い」ことや、「自宅に仏壇と神棚の両方があって毎朝お参りする」といったことを紹介すると、大変驚かれ、質問攻めにあう。

Andriy Blokhin/shutterstock.com
日本への旅となると、かなりの割合で神社仏閣が旅程に入る。お客様の中には、自分と異なる宗教施設、つまり神社仏閣を避ける、あるいは見学のみで参拝しない人もいる。見学だけの際も、手水舎の使い方や参拝方法を実演し、「もしよろしければ私の真似をしてください」と一言添え、お参りを強制するような言い方はしないように留意している。

夕暮れ時の東京ジャーミイ=東京都渋谷区大山町
時々、お客様が信仰する宗教の施設に案内することがある。東京都内のイスラム教のモスクやユダヤ教のシナゴーグは、私の場合、恥ずかしながらいずれも通訳ガイドになってからその存在を知った。特に代々木上原駅近くにある「東京ジャーミイ」は、下見の折に無料のガイドツアーに参加し、これまで触れたことのなかったイスラム教の文化・習慣を垣間見ることができた。
食への配慮
「食」は旅の楽しみの大きな要素であり、ときに心配の種にもなる。
日帰りの個人ツアーでは、お客様と昼食をご一緒する機会が多い。ほとんどの場合、お店を予約せず、お客様の希望や前後の旅程を考慮し、当日午前のガイドをしながら決めることになる。お客様に好まれるお店の選び方やメニューについては、withnewsの記事「日本人にも使える? ベテランガイドが教える、外国人おすすめグルメ」で説明しているので、それを参考にしていただきたい。
最近、ますます増えつつあるヴィーガン(動物性蛋白質を一切食べない)のお客様への食事の提案は、2通りに分けられることに気付いた。
まずは、ガイドするお客様が普段食べているものと同じ、もしくはその食事に近いものを提供すること。

動物性食品を一切使わないヴィーガン料理=埼玉県日高市高麗本郷の阿里山カフェ
インドからのお客様のツアーでは、インド料理店もしくはイタリア料理店(野菜とトマトソースのピザなど)を利用する頻度が高い。彼らにとっては「旅行中も普段通りに快適に過ごす」ことがぜいたくだと言う。食事に対して保守的な、小さな子ども連れの家族旅行では、子どもが喜ぶハンバーガーやサンドウィッチを出すお店に立ち寄ることもある。
もう一つは、日本式のヴィーガン対応食を紹介すること。
異文化体験で宿坊や精進料理店に出向き、美しく本格的な精進料理に挑戦することがある。これは提供できる場が限られているうえ、日本食を食べ慣れない外国人にはハードルが高い面もある。ただし、忘れがたい経験となることは確かだ。
私が東京都内のツアーで特にすすめるのは、もう少し気軽な、白米、味噌汁に選べる主菜と副菜がセットになった「日本人の普段の食事」、つまり「定食」だ。
秋葉原の「こまきしょくどう」は、精進料理の普及に貢献された両親を持つ女将、藤井小牧さんが、毎日でも食べ飽きない精進料理をデリ形式で提供しており、ヴィーガンのお客様から支持されている。日本各地で作られた良質な食材・調味料にこだわっており、ここでの食事から、日本食の奥深さや魅力を語る人もいるほどだ。