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合意なきブレグジットは怖いのか

ブレグジットによる最大の被害者はイギリスだ。大英帝国は解体するかもしれない

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

拡大Melinda Nagy/Shutterstock.com

“合意なき離脱”は悪いのか?

 では、“合意なき離脱”は、どれだけ悪いのだろうか?

 “合意なき離脱”を批判する人たちは、“合意ある離脱”と比較して悪いと主張しているはずである。

 では、その場合の“合意ある離脱”とは何か? 何となく“秩序ある離脱”だと考えられているだけではないだろうか?

 そもそも、“合意なき離脱”は地震や台風などの災害のように突然発生するものではない。

 3月が当初の期限で、これが10月に延長された。企業としては、EUから輸入される商品・部品の在庫積み増しや通関手続きへの対応など十分に事前の準備を行っているはずである。

 離脱後にEUとの間の関税は引き上がるが、適用される関税は現在EUが域外国に適用しているものとなる。これも企業にとっては明らかだろう。10月からの消費税の引き上げに対応して、日本の企業がいろいろな準備をしているのと同じである。

 “合意なき離脱”は“秩序ある離脱”なのである。

 しかも、イギリスの企業も、日本やアメリカなどこれまでEU以外の国と行ってきた貿易(通関手続きなど)をEUと行うようになるというだけのことである。

 つまり、すべては“想定の範囲内”なのに、“合意なき離脱”はイギリスを突然嵐の中に投げ込むようなものだと誇張して報道され、これが一般に信じられている。

 では、短期的な準備はともかく、中長期的には、どうだろうか?

 メイ首相がEUと合意した協定案のバックストップなら離脱後もEUの関税同盟・単一市場にとどまるので、今まで通りである。しかし、これはブレグジットではないと与党の保守党や議会に反対されたものである。これがイギリスとEUの間で合意される可能性はない。

 そもそも“合意ある離脱”がありえず、比較するものがない以上、“合意なき離脱”が悪いとはいえない。

 ブレグジットになると、日本が世界の他の国から独立していると同じように、イギリスは通商関係でもEUを含め世界の他の国から独立する。それだけのことである。また、これに伴う様々な問題もイギリスにとっては、覚悟の上のことである。

 EUとの間に関税が復活して、イギリス国内で野菜・果物やワインなどの価格が上昇したり、自動車をEUに輸出するときに10%の関税がかかるようになるという問題が指摘される。

 しかし、EUと自由貿易協定を締結すれば、この問題は解決される。我々が漠然と“合意なき離脱”の反対の“秩序ある離脱”として考えているのは、この自由貿易協定ではないだろうか?

 自由貿易協定交渉に時間がかかると考えられるかもしれない。

 しかし、日EU経済連携協定など、ひな型となる自由貿易協定はたくさんある。イギリスも他のEU諸国もこれらの協定の当事者なので、これら協定を参考にしてイギリスとEUの自由貿易協定を締結すればよい。

 さらに、自由貿易協定交渉で最も問題となるのは、物品の関税削減・撤廃交渉であるが、イギリスはEUの関税同盟の中にあるため、イギリスと他のEU諸国の関税はゼロになっている。ゼロの関税について、削減・撤廃する交渉は要らない。今まで通りの扱いとすればよいだけである。

 他方で、国境管理が復活して、通関に時間がかかり、イギリスの企業がヨーロッパから部品を調達することが困難になるという問題(逆にヨーロッパの企業がイギリスから部品を調達する場合も同様の問題が起こりうるが、大きな問題とはとらえられていない)も指摘されている。しかし、これはイギリスが望む通り、EUの関税同盟・単一市場から独立する以上当然のことである。

 すでに述べたとおり、この問題は、イギリスがEUと自由貿易協定を締結したとしても解決しない。自由貿易協定を結んで関税をなくしても、原産地証明の観点から国境管理は必要となる。また、離脱後のイギリスとEUとの間で貿易される物品について、その規格や基準が輸出先の規則にあっているかどうかの審査も国境で必要である。(『ボリス・ジョンソンとは何者か?』参照)

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筆者

山下一仁

山下一仁(やました・かずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1955年岡山県笠岡市生まれ。77年東京大学法学部卒業、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、農村振興局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。10年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。「フードセキュリティ」「農協の大罪」「農業ビッグバンの経済学」「企業の知恵が農業革新に挑む」「亡国農政の終焉」など著書多数。

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