
CEOに返り咲き、新取締役会のメンバーと並んで会見する瀬戸欣哉氏(中央)=2019年6月25日、東京都中央区
「株主」が「会社」に予想外の勝利
株主総会が集中する今年6月、最大の話題はLIXIL(リクシル)グループだった。
事態は予想外の展開になり、株主提案が支持され、会社側が「敗北」する驚きの結果となった。そこには年金などを運用する機関投資家が本気で議案の賛否を考え始めたことが影響した。
一方、今年の総会で個人株主の参加は低調で、「企業側の関心は、個人株主から機関投資家に移っている」(金融機関の担当者)との声が出始めている。
機関投資家の三井住友トラスト・アセットマネジメントは7月31日、投資先の上場企業であった今年4~6月の株主総会で賛否を投じた個々の結果を公表した。一人ひとりの取締役の選任議案を中心に1765社で1万9058件に賛否を投じ、3715件に反対した。基準を厳しくしたが、企業も社外取締役を増やすなどして対応し、反対率は微減の19.5%となった。
その中で、16件のうち半数の8件に反対している会社があった。LIXILだ。
LIXILでは、会長兼CEO(最高経営責任者)を務めた創業家出身でもある潮田(うしおだ)洋一郎氏ら会社側が提案してきた取締役の選任議案と、事実上、潮田氏から解任された前CEO瀬戸欣哉(きんや)氏ら株主側が提案した取締役候補が真っ向から対立していた。2人の重複を含み、会社側10人、株主側8人を立て、取締役会での多数派を狙った。
三井住友トラスト・アセットマネジメントは結果的に、重複をのぞいた会社側提案の全員に反対し、重複を含む株主側の瀬戸氏提案にすべて賛成した。
この判断も影響し、会社提案の元財務省関税局長と元ベネッセホールディングス副会長の2人が賛成率44%と過半数を下回って落選。会社側の残り6人(重複を除く)は賛成率51~57%とぎりぎりで可決したものの、取締役の人数差で瀬戸がCEOに復帰した。
これまで株主提案が可決されたケースはわずかで、LIXILでも、米議決権助言会社のISSが会社側2人、株主側4人について反対を推奨していたことから、「結果的に機関投資家は会社側につく」と潮田氏の勝利を予想する声が多かった。それだけに株主側提案が通ったとき、経済界には「意外だ。マスコミの予想とも違った」(経団連幹部)との受け止め方が広がった。
三井住友トラスト・アセットマネジメントによると、賛否のポイントは「コーポレート・ガバナンスの実効性」だった。そのうえで、どちらが企業価値の向上につながるかを、両者の話を直に聞くなどして判断したという。
潮田氏側の説明では、今回の騒動を「勢力争い」ととらえ、説得力に欠けたうえ、瀬戸氏を解任したときの役員人事についても不透明感が強く、「コーポレート・ガバナンス不全」と判断した。
一方で、株主側提案の方がガバナンスの実効性に期待が持てる内容だったという。三井住友トラスト・アセットマネジメントでは、社内に設けた大学教授らでつくる諮問委員会に諮るなど慎重に対応したという。
同社の福永敬輔・スチュワードシップ推進部長は「双方の言い分を聞き、差別することなく、公平に扱った結果」と話す。