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米中通商交渉が秋から進展するこれだけの理由

アメリカの「勝利条件」、中国の「3条件」から見えてくるものは……

武田淳 伊藤忠総研チーフエコノミスト

アメリカの「勝利条件」とは

 米中衝突の行方を占ううえで重要なことは、昨年8月に「出口の見えない米中貿易戦争」でも指摘した通り、仕掛けた側のアメリカの「勝利条件」である。その条件が複数存在することが、先行きを見通し難くしているように思う。

 アメリカの第一の「勝利条件」は、トランプ大統領が就任当初から訴えてきた貿易不均衡の是正である。具体的には、アメリカが現在、中国に対して抱えている年間4000億ドルにものぼる貿易赤字の削減・解消だ。

 巨額の対中貿易赤字は、アメリカ国内の雇用が中国企業に奪われた象徴であり、その削減こそが中国から雇用や富を取り返した証だとして、トランプ大統領は関税を引き上げ、中国の対米輸出を抑え込むことで貿易赤字の縮小を狙い、さらには、引き上げた関税の撤廃を条件にアメリカからの輸入拡大を中国に迫っている。

 第二の「勝利条件」は、アメリカによる経済覇権の維持である。分かりやすい例を挙げれば、「経済規模世界一」の座の死守である。

 経済規模をGDPではかるとすれば、2018年のアメリカのGDPは20兆ドル強(約2200兆円)、中国は13兆ドル強(約1400兆円)。アメリカの経済規模は中国の約1.5倍、中国にすれば、アメリカの約65%の経済規模しかない。とはいえ、仮に今後もアメリカの経済成長が年2%程度にとどまり、中国が6%成長を続ければ、約12年で中国がアメリカに追い付く計算となる。さらに、人民元が米ドルに対して上昇すれば、その分だけ追い付くまでの時間は短くなる。

 要するに、アメリカを大きく上回る中国の成長ペースが、アメリカの経済覇権を脅かす根源だということである。中国経済がこれまで輸出と投資を両輪として高成長を続けてきたという事実に照らせば、その成長ペースを弱めるため、関税によって輸出に障害を設けるという手法は、短期的には有効であろう。実際、中国経済は対米輸出の落ち込みや製造業の設備投資抑制により、足元で顕著に減速している。

「中所得国の罠」に着目した戦略

 同時に、アメリカはより長期的な視点に立ち、いわゆる「中所得国の罠(わな)」に着目した戦略を進めているのだろう。

 世界銀行は、一人当たりのGDPが1万2000ドル程度に達する国を高所得国と定義しているが、一般的に中所得国から高所得国へステップアップするためには、成長の原動力を投資から技術力にシフトする必要があるとされる。

 中国の場合、昨年、一人当たりGDPが9700ドルに達し、今年中にも1万ドルを突破する見通しだ。いよいよ高所得国に入るわけである。中国政府は、それを確実に実現するために「中国製造2025」政策を打ち上げ、技術力の強化を進めようとしたが、アメリカはそれを阻止するため、中国への輸出や中国による対米投資に対する規制を強化することで、中国に対する技術流出を防ごうとしているのであろう。ファーウェイ社に対する規制強化も、この枠組みの中で理解できる。

拡大tujuh17belas/shutterstock.com

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筆者

武田淳

武田淳(たけだ・あつし) 伊藤忠総研チーフエコノミスト

1966年生まれ。大阪大学工学部応用物理学科卒業。第一勧業銀行に入行。第一勧銀総合研究所、日本経済研究センター、みずほ総合研究所の研究員、みずほ銀行総合コンサルティング部参事役などを歴任。2009年に伊藤忠商事に移り、伊藤忠経済研究所、伊藤忠総研でチーフエコノミストをつとめる。

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