人材育成やキャリアパスを早急につくる必要がある
2019年08月19日
多くの日本人にとっては馴染みがないかもしれないが、米国の調査会社「CB Insights」によると、イスラエルはサイバーセキュリティー産業の規模がアメリカに次いで世界2位で 、世界のサイバーセキュリティー産業の売上のシェアが7%と言われている。つまりイスラエルにとって重要な主要産業だということだ。イスラエルでは毎年、サイバーテック(Cybertech)というイベントも開催され、ネタニヤフ首相自らがサイバーセキュリティーの重要性を訴えているほどだ。
2017年5月、世耕経済産業相はイスラエルを訪問し、閣僚級による初の「日本・イスラエル経済政策対話」が開催された。「日イスラエル・イノベーション・パートナーシップ」として共同声明に署名し、その中に「産業分野のサイバーセキュリティー強化に向けた協力」が盛り込まれた。
このように日本でもイスラエルとのサイバーセキュリティー分野での協力が積極的に推進されている。冒頭に紹介したイベント、サイバーテックは日本でも開催されており、イスラエルから多くの関連企業が日本市場に参入しようとやってきている。もちろん、イスラエルは欧米にも積極的に進出をしている。
イスラエルのサイバーセキュリティー産業を支えているのがイスラエル軍の中にある8200部隊の出身者だ。国内外のサイバーセキュリティー関連のイベントを取材すると、イスラエル企業のブースから「8200部隊出身者が立ち上げた企業」「8200部隊出身の優秀な技術者がいる」といった声がよく聞かれる。
8200部隊出身者のサイバーセキュリティー企業の関係者に聞くと、8200部隊とはイスラエル参謀本部の一部署で、同国のサイバー諜報活動やサイバー攻撃・防衛を担っている精鋭部隊だ。イスラエルでは高校卒業後に兵役の義務があるが、上位1%の優秀な者のみが8200部隊に配属されるそうだ。プログラミングや数学、ハッキング技術、語学などが優秀な成績である他にチームワーク、協調性、リーダーシップなど人間的な面でも評価される。
イスラエルの多くの家庭では、子どもに数学やプログラミングなどを必死に勉強させている。8200部隊に配属されるためだろう。確かに、彼らの仕事場はパソコンの前であり、敵のミサイルなどにさらされる最前線の戦場ではない。命の危険にさらされるリスクも少ないため、保護者としても本人としても真剣になるのは当然であり、他国がイスラエルのサイバーセキュリティーのレベルまで追随できないのも頷ける。
このようにイスラエルの若者にとってサイバーセキュリティーのスキルや能力は、自らの命にかかわる重要な問題と言える。さらに8200部隊出身者がサイバーセキュリティー関連の起業をしていくことから、サイバーセキュリティーの高いスキルをもつことは、その後の人生に大きく貢献すると捉えられている。そのため、幼い頃から必死に数学やプログラミング、語学などを勉強している。
また、16~18歳の学生を対象にしたサイバーセキュリティー人材育成のプログラム「Magshimim Le‘umit」を2013年から提供している。2013年1月のエルサレムポストによると、ネタニヤフ首相は「イスラエルはイランやその他多くの国からサイバー攻撃を受けており、サイバースペース防衛はイスラエルにとって死活問題であること、『Digital Iron Dome』の構築が必要である」とサイバーセキュリティーの重要性について述べている。
Iron Dome(アイアンドーム)とはイスラエル国防軍が開発した防空システムである。イスラエルは周辺国と紛争が絶えず、多くのロケット弾による攻撃を受けている。アイアンドームは、それら空からのロケット攻撃を迎撃するための防空システムで、2012年末のガザ地区からの攻撃の防衛用としても利用された。そのアイアンドームのサイバー版としてDigital Iron Dome(デジタル・アイアンドーム)構築の必要性をイスラエルは強調している。人材育成を通じて、イスラエルは諸外国からのあらゆるサイバー攻撃を迎え撃つ構えを示している。
8200部隊出身は退役後、起業したり、技術者として活躍したりしている人は多い。サイバーセキュリティー企業の担当者に聞くと、イスラエル政府としても「軍事機密を漏洩しなければ良い。またスタートアップから収益が上がれば雇用創出にもつながる」というスタンスだそうだ。
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