竹本治(たけもと・おさむ) 神奈川県政策研究担当局長 兼 政策研究センター所長
1985年日本銀行に入行し、産業調査や金融機関の経営分析等に従事。この間、2002年より2004年までワシントン事務所長。2013年より神奈川県庁勤務。2014年以降、現在に至るまで政策研究センター(県庁の調査部署)の所長をつとめる。東京大学法学部卒、プリンストン大学大学院修士(MPA)。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
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前編「厳しい人口減少時代 『令和モデル』転換で突破を」では、労働力不足の改善と生産性の向上を図るためには、日本型雇用システム(「昭和モデル」)を抜本的に改革し、「柔軟な働き方をしても、『損をしない』社会」(「令和モデル」)を早く構築すべき、ということを述べた。後編では、人口減少の抜本対策である「少子化の克服」についてみていくが、その中で、この「令和モデル」が少子化対策としても重要であることを述べていきたい。
ポイント
新しい日本型雇用システム-「令和モデル」-により少子化の克服を
人々が柔軟な働き方をしても「損をしない」新たな日本型雇用システム―「令和モデル」―を構築することは、人口の自然増にも寄与する。若い世代において「時間」「お金」の両面でゆとりが生まれてくることによって、未婚率が下がり、持つ子供の数が増える可能性がある。人口の減少トレンドは一朝一夕には解決しないが、自然増のための既存の対策をさらに進めるとともに「令和モデル」の実現に注力することで、少子化にブレーキをかけていくべきだ。
まずは、人口減少問題の根幹である出生率の低下の問題についてみていくとしよう。出生率や出生数といったものを(未婚の母から生まれる子どもの数はさほど多くないことなどを前提にしながら)極めて単純化してみてみると、出生数は、①出産適齢期の男女が何人いて、②その中で既婚者(夫婦)が何割いるか、そして、③その夫婦が平均何人程度子どもを産むか、ということで決まってくるといえる。
例えば、①出産適齢期の男性が100万人、女性が100万人いたとして、②その9割が結婚していて、③既婚のカップル(男女計180万人)が平均的に2.1人の子どもを持つとすれば、その200万人の成人男女から生まれる次世代はほぼ同数(189万人)となる勘定だ(下表)。1970年代にはおおむねそうした状況にあったし、さらに、当時は高齢化率も低く死亡数の方が少なかったことから、自然増が実現していた。
女性人口×既婚率×子ども数=出生数
1970年代:100×0.9×2.1=189
2010年代: 80×0.7×1.8=100(1970年代の約半分)
しかし、日本では、高度成長期以降の社会構造の変化などを反映して、未婚率はどんどん上昇し、今や3割程度になっている。また、既婚女性が平均的に産む子どもの数も減ってきた。さらに、最近では、出産適齢期にあたる男女の人数が1970年代と比べて8割程度にまで減っている。
こうしたことから、上述の算式は、①出産適齢期の男性が80万人、女性が80万人しかおらず、②その7割だけが結婚していて、③絶対数の少ない既婚カップル(男女計112万人)が平均的に子供を1.8人しか持たない、といったような姿になる。そうなると、出産適齢期世代の成人男女から生まれる次世代は1970年代の約半数(189→100万人)にとどまる。
2010年代にはまさにそういうことが起こっているのである。
ちなみに、「未婚率が高いと出生率が低い」という傾向は、全国的にみられる(下図)。東京23区は出生率が大変低いといわれているが、これは未婚率が抜群に高いためでもある(下図の赤い■部分)。未婚率の高い市町村は全国にたくさんみられており、都市部(札幌・仙台など)・都市部以外を問わず、そうした未婚率の高いところでは出生率が低い傾向にある。
つまり、人口減少対策として目指すべきは、①都市部など、未婚率が特に高い地域を中心に、まずは「未婚率を引き下げる」こと、そして②既婚カップルの「平均子ども数を引上げる」ことだ。人口の集積している都市部でこうした対策を講じることは、日本全体の人口減少問題を解決する上でインパクトも大きいことから、特に優先して取り組むべきだ。
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