
トランプ米大統領(中央右)との再会談に臨む安倍晋三首相(同左)。右端はライトハイザー米通商代表、左端は茂木敏充経済再生相=2019年8月25日、フランス・ビアリッツ
すべてはトランプ再選のため
日米貿易交渉が大枠合意された。来月にも安倍首相が訪米し、協定に署名する予定だという。
結論から言うと、すべて来年の大統領選挙でトランプが再選できるようにするための合意である。
これまで、主として日本の側から交渉を分析・評価してきた。今回は角度を変えて、アメリカのトランプ政権からこの合意を見てみよう。
トランプの最大の関心は、大統領選挙での再選である。そのために欠かせないのが、中西部での農業票である。
アメリカの大統領選挙は、選挙する前から、どちらの党の候補者がどの州で勝利するかはあらかじめわかっている。カリフォルニアは民主党、テキサスは共和党という具合である。
このなかで10くらいのスイングステイトと呼ばれる州については帰趨が分からず、ここで勝つかどうかが大統領選挙全体の勝利を決定する。スイングステイトとしてフロリダが有名だが、ペンシルベニア、オハイオ、ミシガン、アイオワなどスイングステイトの多くが中西部と言われる地域に集まっている。
前回の大統領選挙で、トランプは貿易によって雇用が奪われていると主張して、中西部の鉄鋼、自動車業界の労働者の票を集めて、中西部で勝利した。ペンシルベニア、オハイオは鉄鋼業で、ミシガンは自動車産業で栄えた地域である。
これらの重厚長大産業は日本などの企業に押され、今では錆びた地域(ラストベルト)と呼ばれている。従来中西部は労働組合の支持を受ける民主党の金城湯池だったが、労働者がトランプ支持に転向した。これが、トランプが大統領選挙で勝利した大きな要因となった。
来年の選挙でも、再選するためには中西部での勝利が不可欠である。