
米イリノイ大学の実験農場とマイケル・グレー教授。遺伝子組み換えトウモロコシの耐性害虫の出現を毎年監視している=2013年7月19日、米イリノイ州アーバナ
中西部は「コーンベルト」
中西部はラストベルトであると同時に、コーンベルトと呼ばれる農業地域でもある。保守的な農家は伝統的に共和党を支持してきた。農家票が民主党に行くとトランプは苦戦する。
コーンベルトは大豆とトウモロコシの輪作地帯である。どちらも主な用途は家畜のエサである。
ところが、トランプが始めた米中貿易戦争で、世界最大の大豆輸出先である中国がアメリカ産大豆の関税を引き上げたことから、アメリカ産大豆は行き場を失い、大豆は農場に野積みされ、大豆価格は暴落した。
さらに、TPP11や日EU自由貿易協定によって、オーストラリア、カナダ、デンマーク、スペインなどの国が日本に輸出する際の関税が、アメリカ産の牛肉や豚肉よりも低くなるので、これらの産品の日本への輸出は減少する。これらの産業が打撃を受ければ、これらにエサとして大豆、トウモロコシを供給する中西部の農家はさらに打撃を受ける。
圧倒的に有利ははずの交渉で大幅譲歩
日本市場でアメリカ産農産物が不利になったのは、トランプがTPPから離脱したためである。アメリカ政府としてはトランプの意向でTPPに復帰できない以上、日米FTA交渉をするしかなかった。
ところが、日本は日米FTAがなくても今まで通りアメリカに自動車を輸出できる。日本にとって日米FTAは必要ない。日米FTA交渉をお願いするのはアメリカだった。日本が筋を通してアメリカにTPP復帰を要求すれば、アメリカとしてはどうしようもなかった。
それなのに、日本はアメリカ通商拡大法232条を利用して安全保障の観点から自動車への追加関税を行うということに過敏に反応してくれた。しかも、日米FTA交渉に応じてくれたばかりか、農業についての譲歩上限はTPPだとして、交渉の入り口からTPP並みの譲歩を認めてくれた。
本来日本が圧倒的に有利な交渉のはずなのに、交渉ではアメリカの主張を日本側が聞くという1980年代の日米交渉のようなものとなった。農産物については、アメリカはTPP並みの合意を勝ち取ったのに、自動車の関税は日本にTPP並みの譲歩もしなくて済んだ。
そればかりか、農産物についてのTPP11での輸入割当枠やセイフガード発動水準はアメリカの輸出実績を加えたままの水準になっているため、アメリカがTPP11に戻ってこないことがはっきりすれば、これからアメリカの輸出分は差し引かなければならず、日本はそのための交渉をオーストラリア等と行わなければならなくなる。
人の好い日本は、しなくてもよい余計な交渉まで背負い込んでくれた。しかも、オーストラリア等との交渉が決裂して困るのは日本で、アメリカではない。