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通訳ガイドへのスキルアップ 外国人に聞かれたら

昔習った英語を使って観光客のガイドができないか? そう思っている人多いですね。

古屋絢子 全国通訳案内士(英語)

 押し寄せる訪日外国人旅行(インバウンド)をどう取り込んだらいいのか――。全国各地で、自治体や観光業者が試行錯誤しています。一方、ライフシフトが叫ばれる時代になり、自分が持つ力を社会に生かしたいという人も増えてきました。通訳ガイドも規制緩和のもと、英会話のスキルや日本文化の知識を誰でもスモールビジネスにつなげることができるようになりました。論座ワークショップ「私にもできるかも! 外国人客のガイドに必要なスキルを学ぶ」(8月3日)を開くと、各地から集まった参加者から多くの質問が寄せられました。講師の古屋絢子さんに、その一部についてアドバイスをしてもらいました。(「論座」編集部)

全国から72人が参加

 参加者は72人。東京や近郊が中心ですが、新潟県や静岡県、京都府から参加した人もいました。ワークショップの第1部は古屋さんの講演ですが、第2部「異文化ギャップ 私ならこうする」と、第3部「こんなこと質問されたら」は、ともにグループごとによくある外国人からの質問への対応について、グループで考えてもらいました。ガイドという限られた時間と知識の中で、かつお客さんとしての外国人に満足してもらうか、というシチュエーションが前提です。グループ名に、地名をつけました。

インバウンド5拡大通訳と共に、お座敷で芸舞妓と一緒に食事を楽しむ米国人夫婦=2018年11月26日午後7時51分、京都市東山区、佐藤慈子撮影

第2部 異文化ギャップ 私ならこうする

 各グループが取り組んだ1~6の質問は、筆者が実際に経験した「ピンチ」な状況です。もし皆さんがその場に通訳ガイドとして居合わせたら、どのように対応しますか?

【質問1】夏のツアーでお寺の本堂へ。サンダル履きのお客様がスノコの上で靴を脱ぎ、裸足で地面を歩いて下駄箱にサンダルをしまおうとしている。

・事前の注意が大切。ウェットティッシュを用意して汚れた足の裏をふいてもらう。(軽井沢班)
・日本では家の中をきれいに保つ習慣がある。スノコも家の中と考え、きれいに保ちたい場所なので、土足で上がらない、と説明する。(成田班)
【質問2】お客様と4人でカフェに入ったら、飲み物を一つしか注文しない。さらに前のお店で買ったパンをあけて食べようとしている。

・そのお店のサービスを楽しんでほしいから、一人一品注文してください、よそのお店のものを持ち込んでの飲食はできないと説明する。(六本木班)
・お店の人に交渉して、その店の商品も購入するかわりに持ち込みを認めてもらう。(北千住班)
【質問3】東京都内のツアー中、電車内でお客様どうしが大声で話しはじめた。年配の乗客からは冷たい視線を浴びせられている。

・お客様に恥をかかせないよう、降車してから注意する。(富士山班)
・前述の対応に加え、乗車前の説明が大切。(江の島班)
【質問4】お寺の中にある日本庭園にて。入口にある結界(立ち入り禁止の印)の意味を理解しないお客様が、そこを超えて写真撮影をしようとしている。

・先に「立入禁止」であることを伝え、そのあとに結界とは何かを説明する。(川越班、月島班)
【質問5】なかなか予約の取れない人気のおすし屋さん。苦労して予約したものの、当日、突然キャンセルしたいとお客様に言われてしまった。

・はじめにキャンセルの理由を確認し、体調不良などやむを得ない理由であれば、キャンセルチャージをお支払いただく。(秋葉原班)
・前述の対応に加え、一部のお客様のみのキャンセルであれば、お店にお願いして折詰を用意いただくことも検討する。別のお店の提案も視野に入れる。(川崎班)
【質問6】デパートでの買い物中、お客様から「この価格は適正か? 値引きはないのか?」と価格交渉の通訳をさせられそうになった。

・免税、少額の割引やノベルティーをもらえないかお店に確認する。(水戸班)
・前述の対応に加え、価格交渉を楽しみたければ家電量販店にお連れする。(八王子班)

筆者の解説

 質問はいずれも外国人客にとって初めて見聞きする日本の習慣や常識であり、住んでいる国や地域の習慣が違い、持っている「常識」が日本で通用しない事例です。

 通訳ガイドをする場合は、案内する人たちの背景を理解し、気まずい雰囲気にならないように事前にアドバイスをすることが望まれます。そのアドバイスも具体的にどのような行動をとったらいいのか、というような形で。一方的に「○○しないでください」とお願いするのではなく、簡潔に日本での習慣や行動の根拠についても触れるようにするといいでしょう。

インバウンド5拡大錦市場内に貼られた食べ歩きの自粛を求めるステッカー=2018年12月10日午後2時13分、京都市中京区、佐藤慈子撮影

 各グループの回答は、どれも的を射たものでしたが、いくつか私なりの補足をしてみましょう。

【質問3】のケース

 公共交通機関内の大声は、お客様の隣に移動し、小声で「おしゃべりをいったん止めて耳を澄まして。静かでしょう? 日本人は車内で居眠りする人もいるくらい、静かに過ごします。少し声のトーンを落としませんか?」と話しかけてみる。
【質問5】のケース

 レストランなどお店の予約に関しては、予約を依頼された時点で、キャンセルチャージの説明をする。特に日本食の飲食店では仕込みに時間をかけるため、直前のキャンセルが難しいこと、もてなす側に失礼であることを説明し、お客様の気分によるキャンセルを防止するべく説得する。(ガイドが予約を入れてそれをキャンセルすることになると、ガイドが次回以降そのお店を予約できなくなるリスクがあるため)
【質問6】のケース

 日本の多くの商店では商品が適正な価格で売られており、原則として値引きの習慣がないことを伝える。

第3部 こんなこと質問されたら

 筆者がツアーでよく聞かれる質問の代表例です。皆さんは通訳ガイドとしてどのような答えを返しますか?

【質問1】日本の麺類は種類が多いね。ラーメン、うどん、そばの違いは?

・関東ではそば、関西ではうどんが主流であることに触れ、さらにパスタも人気であると伝える。(川崎班)
・原料の違いを説明し、お客様の食事制限(アレルギー等)を確認した上で、フードコートにお連れし、3種類を購入、食べ比べをさせる。(水戸班)
【質問2】(お客様から)キリスト教徒は毎週日曜日に教会へ行くけれど、日本人は毎週何曜日に神社やお寺にお参りするの?

・日本人の宗教観を問われていると解釈し、自分の事例(ライフイベントとして参詣するが頻度は高くない)を説明する。(六本木班)
・日本人の間でも信仰心に個人差があることを説明する。(軽井沢班)
【質問3】日本映画にはよく忍者が出てくるよね。どこへ行けば忍者に会えるの?

・お客様の興味の深さにより提案を変える。例としては、忍者レストランにお連れする、伊賀など忍者の里に旅行する、テーマパークのVR(バーチャルリアリティ)を体験させるなど。(八王子班・秋葉原班)
【質問4】どうして日本の街かどにはごみ箱がないのに、道がきれいなの?

・1964年の東京オリンピックから街の美化が推進されたことや、背景には集団生活のモラルとして「環境美化」をかかげていることを説明する。(月島班)
・テロ事件防止のため公共の場のごみ箱が激減したことや、学校教育では生徒が掃除を担当する習慣があり、大人になってもその美意識が持続していることを説明する。(江の島班)
【質問5】(街中で)どうして沢山の人がマスクをしているの?感染症?大気汚染対策?

・外国人客にとっては不気味に感じるマスク姿。かぜの予防のほか、すでにかぜをひいた人が周囲への気遣いとしてマスクをすることに触れる。さらに、女性がお化粧をせずに外出するのに便利な手段であること、二日酔いの口臭対策にも有効であると説明し、マスクを試すことまで提案する。(富士山班)
【質問6】(5円玉を指して)これはいくら?どうして5円玉をおさい銭にするの?

・穴のあいた硬貨をちゅう造する技術に注目すると同時に、「5円」と「ご縁」の発音が同じで、良縁を得られるという考え方を紹介する。(川越班)
・5円玉の表面には漢数字しか書かれていないため、外国人にはいくらだかわからないことを踏まえ、農林水産業を象徴する5円玉のデザインと合わせて「ご縁」の意味も説明する。(北千住班)

筆者の解説

 ここで取り上げた六つの質問は、これまでのツアーで受けた質問の上位に入るものです。特に「清潔さ」と「マスク」に関しては、国や地域を問わず、ほぼ全員から指摘されます。ワークショップ参加者の回答にもあるように、直接的な理由のみならず「なぜ日本人はきれい好きなのか?」といった根本的な疑問にも、いくつかの視点から根拠を示して説明を試みるのがいいでしょう。

【質問1】のケース

 ツアーでお昼の相談をする際によく出てくる質問です。めん類の特徴を共通点と相違点を示して簡潔に紹介するといいでしょう。お客様から「あなたはどのめん類が好きか」とガイド個人の好みを質問されることもあります。
【質問2】のケース

 一般的な日本人では、仏教や神道を信仰する場合でも特定の曜日に礼拝に行く人は少ないということを説明します。ただ、それを丁寧に説明することよりも、「どれくらいの頻度で人びとは宗教施設に参拝するのか」といった頻度や回数に興味を持たれることが多いことを理解し、簡潔に回答するようにしています。

 第3部のような質問の場合、気楽な雰囲気で出てくることが多いため、自分の個性やユーモアを駆使して回答できるといいでしょう。

インバウンド5拡大「竹林の散策路」。落書き被害にあった竹には緑のテープが貼られている=2018年11月18日、京都市右京区、徳永猛城撮影

見えづらい通訳ガイドのキャリアパス

 ワークショップには、すでに資格を持っていて活動をしていたり、資格を持っているものの有効活用できていなかったり、今後通訳ガイドを考えてみたいという人たちが参加していました。多くの人に共通していたのが、通訳ガイドとしてどのように自立したのか、という質問でした。居住地や活動範囲によってキャリアパスは違うと思いますが、少しでも参考になればと思い、筆者のケースを含め一般的な例を紹介します。

インバウンド5拡大滞在する外国人たちと餅を食べながら談笑する日本人夫妻=2019年4月18日午前11時53分、吉備中央町上野、華野優気撮影

デビューまでの道のり

 多くの「全国通訳案内士」は試験合格後、ガイド団体に任意で入会し、新人研修を受講します。ガイド団体の中には仕事のあっせんに力を入れるところもあると聞きますが、団体に所属する義務はないため、筆者を含め無所属のガイドも少なくないのが現状のようです。試験に合格し、通訳ガイドを始めた当初は、充実した研修メニューを持つガイド団体に所属して研修を受けることや、仲間を増やしたり、交流したりすることに一定の意味はあると思います。今回のワークショップで多くの質問が寄せられたように、訪日外国人客が年間3000万人を超える時代ですが、その人たちから依頼を受けられるようになる、プロのガイドとしてのスタートアップが見えにくいためです。

インバウンド5拡大古屋さんが利用する通訳ガイドに役立つ関連本

仕事の依頼先と報酬

 筆者を含め、全国通訳案内士の9割以上がフリーランスと言われています。仕事の依頼は大まかに四つのルートがあります。

  1. エージェント経由(6割)
  2. 人の紹介(2割)
  3. ホテルのコンシェルジュ(1割)
  4. その他、マッチングサイト(数件)

【1】のエージェントというのは、旅行会社のことを指します。国内もあれば、国外の場合もあります。複数の会社にガイドとして登録させてもらい、ツアーの案件ごとに旅行会社から打診があります。一般の観光のほか、特殊な分野や専門的なツアーを展開する旅行会社もあります。

【2】は過去のツアー参加者(外国人客)や他の地域で活動するガイド仲間などからの紹介です。先方との間に信頼関係が構築されていると、要望に応じてツアー内容を決めることが多くなります。自由度の高い案内が可能であるとも言えます。

【4】オンライン上に複数のガイドと利用者を結ぶマッチングサイトがあります。ガイド自身が顔写真、プロフィール、サービス内容、料金をサイト上で提示し、お客様と直接交渉をする仕組みです(ツアー成約時にお客様からサイト運営会社に仲介料を支払う)。ガイドの個性を生かしたツアーが展開できますが、1件成約するまでに何通もメールをやり取りする必要があり、非常に手間を要するとも言えます。

 報酬は幅がありますが、東京都内を8時間ツアーした場合、一般的には25000~35000円の収入が得られると思います。一見すると高収入に見えますが、ツアーのために行う下見や多分野の勉強をすることが多いため、プロとして開業してから数年の間は支出が多くなると思います。

生計を立てることの難しさ

インバウンド5拡大ワークショップの講師、古屋絢子さん
 一番の難しさは、春と秋にツアーが集中する季節労働である点です。仕事を平準化するためには、春秋以外の季節に来日される国・地域の人たちが参加したり、希望したりするツアーを研究し、積極的に受け入れていくことです。もう一つは、通訳ガイドと関連する他の仕事もする兼業です。後者の方が現実的かと思われます。

 筆者の場合、各地のガイド講座や講習会の講師を引き受ける際、ガイドの繁忙期を避けて開催してもらうように日程調整してもらうことが多いです。そうした個人事業主としてのマネジメントを上手にすることで、切れ目なく二つの仕事をすることができています。

 ガイドの内容や語学の面でのブラッシュアップは、手間暇がかかります。ツアーの少ない夏や冬に、集中して勉強や下見の旅をすることも多いです。まさに「生涯学習」を体現するような生活であります。心身ともにタフで、サービス精神が旺盛で、学ぶことの好きな方にはうってつけの仕事であると思います。


筆者

古屋絢子

古屋絢子(ふるや・あやこ) 全国通訳案内士(英語)

全国通訳案内士(英語)。東京都出身、お茶の水女子大学大学院修了。日本科学未来館、東京大学を経て2013年に全国通訳案内士試験合格。現在は1年のうち5か月以上、外国人観光客を対象としたツアーを全国各地にて実施する。さらに年間2カ月近く官公庁、自治体主催のインバウンド研修、ガイド養成講座等にて講師をつとめる。 【通訳ガイド稼働実績】*言語は全て英語 2017年度:120日 (個人ツアー 110日 / 団体ツアー10日) 2018年度:170日(個人ツアー 60日 / 団体ツアー110日) 【主な講師実績】 環境省国立公園満喫プロジェクト 人材育成支援業務(検討会委員、講師) 文化庁ミュージアムマネジメント研修(講師) 地域通訳案内士養成講座(行政主催・飛騨地域、佐渡地域、金沢市) 特例通訳案内士養成講座(行政主催・福島県) ボランティアガイド講座(埼玉県行田市、東京都江東区、新潟県長岡市) 専門学校(神田外語学院国際観光科、文京学院大学)

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