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年金財政検証、マスコミが見落としている論点

年金改革は税制と一体的に見直していく必要がある

森信茂樹 東京財団政策研究所研究主幹

William Potter/Shutterstock.com

 待たれていた公的年金の財政検証が公表され、マスコミは大きく報道した。報道内容はおおむね冷静で、今後も受給開始時期について選択肢の幅を広げたり、支え手を増やしたりする改革の必要性を訴えていた。

 しかし筆者が受けた感想は、マスコミの報道では「年金改革に必要かつ重要な論点」が論じられていないということである。そこで以下、その論点を論じてみたい。

専業主婦の3号被保険者制度の見直しが必要

 第一に、支え手を増やすという論点である。そのためにはパートなど非正規労働者に厚生年金の適用を拡大することが指摘されている。

 これに対しては、雇用者側のスーパーなどが負担増に対して反対しているということだが、より大きなそして根本的な問題は、一定の所得以下のパートを含む専業主婦は、自ら厚生年金に加入して積み立てなくても、将来基礎年金がもらえるという3号被保険者制度にあるということである。

 厚生年金(会社員)や共済年金(公務員など)に加入している夫に扶養されている配偶者で、年収130万円未満の人は、みずから保険料を払わなくても、夫が加入する厚生年金や共済組合の保険料で、将来基礎年金を受け取れる。しかし130万円を超えると、年金保険料負担が生じるので、相当数の人たちが、自らの意思で就労調整をしている。

 この点、平成28年10月からは、従業員が501人以上の会社について、週20時間以上働き、月額賃金8.8万円以上などの条件を満たす者に対象が広がり、就労調整の壁は130万から106万円に引き下がった。そして、これをもっと拡大(引き下げ)しようというのが今後の改革案の一つである。

 しかし、3号被保険者制度がある限り、雇う方も自らも、負担をせずに済むので、厚生年金への加入拡大は広がらない。

 つまり支え手を増やすには、3号被保険者制度を見直すことが必要であり、スーパー側だけの責任とするのでは根本問題は解決しない。

 紛らわしいのが、年金の受給開始時期についての選択肢の拡大(具体的には現行70歳から75歳に)である。これは、延長見合いの年金給付額の増大がセットになっており、年金財政の改善にはつながらない目先だけの改革ではないか。

「今後10年間は消費増税なし」では成り立たない

 次に、年金財源の問題である。

 約24兆円(令和元年度見込み)の基礎年金の国庫負担2分の1は消費税で賄われている。一体改革で消費税率が5%から10%へと引き上げられるが、そのうちの1%は国庫負担の財源となっている。つまり、消費増税と年金制度とは、強くリンクしているということで、あらたな財源の必要となる基礎年金水準の引き上げや最低保障年金の整備などについては、消費増税なくしては考えられないということである。

 とりわけわが国の公的保険は、所得再分配機能も兼ね備えており、その部分は消費税が担っているといえよう。安倍総理の「今後10年間は消費増税は考えなくていい」というような認識では、年金制度の持続可能性は保証されない。

Princess_Anmitsu/Shutterstock.com

年金税制の改革が必須

 三番目に、年金の将来の財源を考える場合には、年金税制の改革が必須という点についてである。

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