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線虫の嗅覚でガン発見、カイコガの嗅覚で麻薬発見

生物の驚きの知恵が地球を救う! 自然に学ぶ技術開発

木代泰之 経済・科学ジャーナリスト

拡大カイコガ=東大先端研HPより

昆虫はAIにできないことを簡単にやってのける

 一方、カイコガの嗅覚を使って「センサ昆虫」を開発したのは、東京大学先端科学技術研究センター所長の神崎亮平教授である。

 オスのカイコガは触角がフェロモンを感じとると、電気信号が脳に流れ、脳は本能的にフェロモン源を探索するよう行動指令を出す。メスが遠くにいても、オスはジグザグしながら追いかけていく。

 センサ昆虫は、オスの嗅覚受容体の遺伝子をフェロモン以外の化学物質に反応するよう改変したカイコガ。空港などで麻薬など違法薬物や、その所有者を探知する。

 探知用の機器や探査犬が数千万円するのに対し、カイコガは1匹わずか5円。マツタケを見つけるカイコガも作製されている。

 人の脳は推論や未来予測、計算をする認知機能の部分が発達しているが、昆虫は進化の過程で生き抜くために本能的に反応し行動する部分が発達した。カイコガの脳は1ミリほどの大きさで、神経細胞の数は約10万個。1000億個ある人の100万分の1にすぎないが、その情報処理は実に素早く低エネルギーである。

 昆虫は、地球の全生物180万種のうち50%以上を占める。神崎教授は「昆虫はAI(人工知能)にもできないことを本能的に簡単にやってのける。優れた問題解決能力の活用はSDGsにも適う発想だ」という。

未開拓の生物の領域に着目する産業界

 人類は石油・石炭・天然ガスなどの地下資源を採掘し、膨大なエネルギーや鉱物資源を消費して生活を豊かにし、科学技術を発展させてきた。

 しかし、19世紀半ばの産業革命以降、大気中の二酸化炭素濃度は急激に上昇し、温暖化を招いている。南北極やグリーンランドの氷は解けつつあり、このまま平均気温が上昇すれば、そう遠くない未来に地球は生命が暮らせる環境ではなくなることが危ぶまれる。

 SDGsは、その危機的な状況に歯止めをかけようという運動である。多くの資源を投入するのをやめ、エネルギー消費を抑えた生物の賢い知恵や能力を活用する発想を重視する。

 トヨタグループや積水化学は最近、「自然に学ぶモノづくり」を研究する部署を設置した。AIやIoTの開発に偏ってきたイノベーションが行き詰まる今、未開拓の領域である生物の研究に目を向けようという気運が産業界に生まれている。

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筆者

木代泰之

木代泰之(きしろ・やすゆき) 経済・科学ジャーナリスト

経済・科学ジャーナリスト。東京大学工学部航空学科卒。NECで技術者として勤務の後、朝日新聞社に入社。主に経済記者として財務省、経済産業省、電力・石油、証券業界などを取材。現在は多様な業種の企業人や研究者らと組織する「イノベーション実践研究会」座長として、技術革新、経営刷新、政策展開について研究提言活動を続けている。著書に「自民党税制調査会」、「500兆円の奢り」(共著)など。

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