大学生のリアルな年金知識
厚労省がまずやるべきことは大学生の理解レベルがどの程度なのか知ることだ
深沢道広 経済・金融ジャーナリスト
的外れな厚労省や年金機構
今年3月、年金制度について議論する厚労省の社会保障審議会の年金部会で年金制度の周知・広報に関する現状の主な取組みが紹介されている。例えば、おなじみのインターネット・パンフレットを通じた年金制度に関する周知・広報だ。
そして日本年金機構の職員が大学や高校などに行き、年金制度の意義や仕組みについて理解を深めるための年金セミナーの実施。2017年度は全国で延べ3650回開催し、約28万人の学生が受講したという。
このほか、日本年金機構が毎年11月をねんきん月間と位置付け、公的年金制度の普及・啓蒙活動を展開している。
もちろん、厚労省もこれらで十分と考えているわけではなく、これらの取組みに加え、さらなる方策が必要と考えている。2019年度は6月~9月にかけて、学生との年金対話集会を企画しており、大学や市町村の協力で大学生や20~30代前半の若者30~40名が参加して開催。その趣旨は、学生と年金局職員が年金について語り合うことを通して学生に年金問題について考えてもらい、学生からの意見や指摘を今後の年金行政にいかしていくという。
概要はこうだ。年金局職員が年金制度の説明を行った後、座談会形式で年金をテーマに学生と職員が意見交換するというものだ。実施予定なのは、愛知県立大学、北海道大学、東北公益文科大学、大妻女子大学、県立広島大学。果たしてうまくいくだろうか。
答えはNOである。
押し付けの年金教育の前に
筆者が厚労省の取組みがうまくいかないと考えるのは、厚労省が制度など一方的な説明をする点だ。もちろん、彼らの制度運営者としての立場は理解できる。しかし、伝える相手がそれを果たして求めているかということである。
さらに、彼らの説明が大学生の理解レベルにあっていない点を指摘することができる。年金局や年金機構の職員と大学生では当たり前のことがまるで違う。
厚労省がまずやるべきことは大学生の理解レベルがどの程度なのか知ることだ。伝える相手のことを考える。この当たり前のことができていないのだ。
今回のアンケートでも筆者は「国民年金」や「厚生年金」といった言葉も極力使わないよう、パラフレーズするなど工夫している。
しかし、年金局などの作成する20歳の人向けパンフレットはいきなり「老齢基礎年金」「障害基礎年金」「遺族基礎年金」といった専門用語で始まる。あげく「国民年金被保険者届出書」とくる。「これでは最初で読む気が失せてしまう」(神奈川県の大学1年生)という。
複雑な年金制度を分かりやすくするために生まれたのが漫画形式だが、相変わらず専門用語は使い続けている。これではあまり意味がない。