ジョンソンもマクロンも望むブレグジットの結末
英国は脇役。EUから見なければブレグジットの行方は見通せない
山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

EU首脳会議の会場に到着したフランスのマクロン大統領=2019年3月21日、ブリュッセル
英国は脇役、主役はEU
9月11日に主要紙が一斉にブレグジットについての分析・解説記事を掲載した。
EUと離脱条件で合意できない場合、10月末の離脱期限を来年1月まで3か月延長するようEUに要請することをボリス・ジョンソン首相に義務付ける離脱延期法が成立。さらにジョンソン首相が新しい議会でこれを否決するために提出した解散・総選挙を求める動議も2度にわたり否決されたからである。
このため、10月末のブレグジットを譲らないジョンソン首相は、残された手だてがなくなり、窮地に陥っているという見方が大勢を占めているようである。
英メディアでは、ジョンソン首相が離脱延期法を無視する、離脱延期の要請はするが自分は離脱を望まないという書簡を添付して離脱延期を無効にする、などのシナリオが語られているという。
ただし、これらはいずれも奇策であって、実際にジョンソン首相が採用するかは疑わしい。仮に採用すれば、政権の正統性も疑われる事態となり、次の選挙に大きなマイナスとなる。
しかも、これらの報道は、主としてイギリスからの見方である。一方の当事者であるEUについては、再延期を認めることは困難だとしながら、EUとしても合意なき離脱は避けたいという観点から、総選挙や国民投票などの条件付きで延期を認めるのではないかという見方を示している記事がほとんどである。
つまり、EUは脇役であるかのような記事を書いているのである。あくまでイギリスが主役だという扱いである。
その中で、朝日新聞だけがイギリスではなくEUを中心に置く出色の記事を書いている。しかも、EUの見方も「合意なき離脱 漂う容認論」として他紙とは全く逆の見方をしている。
これは、私がたびたび『論座』で主張してきたことである。ようやく日本の主要紙のなかで論理的にブレグジットを分析・解説できる記事に出会うことができたようである。
確かに、イギリスの政府や議会の混乱・迷走ぶりは、見ている観客としては面白い限りで、記事になりやすい。ボリス・ジョンソンというユニークなキャラクターも登場した。
しかし、メイ元首相との協定案作りで主導権を握り続けたのはEUである。
イギリス議会がメイ元首相とEUが合意した協定案を3度にわたって否決したのは、バックストップ(アイルランドとの厳重な国境管理を避ける方策が見つからない限り、イギリス全土をEUの関税同盟などの下に置くというアイルランド紛争回避の安全策)についてEUが譲らなかったからである。客観的に見ると、主役はEUである。イギリスはせいぜい準主役あるいは脇役という位置づけなのである。
『合意なきブレグジットは怖いのか』で述べたように、「論理的にも、“合意なき離脱”しか選択肢は残っていない。(中略)EUは、イギリスの離脱強硬派が要求するバックストップの修正や撤回など重要な要素について譲るつもりは全くない。つまりイギリスとEUがともに納得する協定案はありえない。逆に言うと、“合意ある離脱”がない以上、“合意なき離脱”しかない」のである。