あなたも「ワインツーリズム」学んでみませんか?
全国へ広がりを見せる「ワインツーリズム」。キーマンが語る地域ビジネスの興し方
大木貴之 LOCALSTANDARD株式会社代表、 一般社団法人ワインツーリズム代表理事
誰かが何か変化を起こしてくれるのを待つのでは遅い
2004年、仲間とともに「ワインツーリズム」の活動を始めたのですが、私自身は2000年に東京都内から地元山梨に戻り、当時シャッター街化していた甲府駅周辺で、「まずは人が集まる場をつくろう」と飲食店をオープンさせました。当時の甲府駅周辺は、郊外の大型店に人の流れを奪われ、著しく疲弊していました。勝沼などのワイナリーを巡ることも一般的ではなく、ワイナリーはワインを製造することが仕事であって、週末の土曜日曜はお休みというところがたくさんありました。
こうした状況下で、誰かが何か変化を起こしてくれるのを待つのではなく、自身が学んできたことを地域に還元することで、地域の環境を少しでも変えていこうと始めた私の店には、デザイン、写真、イラスト、編集など様々なスキルを持った人や、現状を変えて山梨をよくしたいと考える人たちが出入りするようになってきました。彼らとともに「日常的に山梨県産ワインを楽しめる街」にしていこうと「ワインツーリズム」という活動をスタートさせ、私のお店では「山梨県産のワインしか飲めない」ことを徹底しました。
「山梨県で山梨県産ワインを日常的に飲むのは当たり前じゃないか?」
そう思われるかもしれませんが、必ずしも地域の名産品が地域で楽しまれているとは限りません。山梨県産ワインはお土産としては有名でしたが、つい数年前までは地元山梨でもワイン醸造に関わる地域を除けば、なかなか日常的に地域住民が飲むものではありませんでした。それゆえ山梨県産ワインを提供する飲食店も、積極的に販売する酒販店も多くはありませんでした。

大木貴之さん提供
「ここならでは」のサービスをつくる
私たちがやっているのは、地域資源であるワインの販売促進事業ではなく、「地場産業の三次産業化」です。ものづくりで止まってしまっている地場産業を、地域の他の業種に取り込むことによって、「ここならでは」のサービスをつくることです。それとともに、ものづくりの現場に消費の現場から情報をフィードバックし、洗練させていくことで、地場産業であるワインのものづくりの側面だけでなく、食文化のなど地域住民が日常消費する側面からもワイン産地を形成していこうという取り組みです。
具体的には、山梨県産ワインがたくさんそろっている酒販店や飲食店、ワイナリー巡りに適したホテル、ワイナリーツアーに特化した旅行会社、ワイナリーの立ち上げを得意とする建築家、日本一ワインやぶどう関係の蔵書を誇る図書館などです。これらは今現実のものとなって地域に存在しています。

大木貴之さん提供
参加者が自分で作る小旅行
「ワインツーリズム」の活動の中で、代表的なのが2008年に「理想のワイン産地をつくろう」とスタートさせた、ワイナリーのある地域をめぐる「ワインツーリズムやまなし」というイベントです。山梨県内ではワイナリーを巡ることが一般的ではありませんでした。そこでワイナリーのある地域をテーマパークと見立てて丸ごと楽しんでしまおうというイベントを立ち上げました。
具体的には、山梨県内の六つの市にまたがるワイナリーをエリア分けし、週末の2〜3日にそれぞれのエリアを割り当て、各エリア内にイベント限定の専用巡回バスのバス停を設置します。JR勝沼ぶどう郷駅、塩山駅、山梨市駅、石和温泉駅、甲府駅、竜王駅などを起点として、複数のワイナリーを1日で巡りやすいように循環するバスルートを設定し、当日限定で運行させます。
イベント参加希望者は、事前にインターネットから申し込んでいただきます。これまでの参加者は全国全ての都道府県から、最近は海外からのお客様も参加されるようになってきています。楽しみ方は、参加申し込みをすると送られてくる「ガイドブック」などをもとに、地域を「予習」しながらワイナリー巡りやランチ、宿泊などといった現地での行動プランを自ら考えていただいています。
当日は、受付で渡されるおそろいのワイングラスホルダーに記念テイスティンググラスを入れ、それぞれが考えたプランに沿って地域を散策しながら思い思いのワイナリーに足を運んでもらっています。そこで提供される有料・無料のワインテイスティングをして、お気に入りのワインを見つけて購入してもらうというものです。

大木貴之さん提供
ワインツーリズムが補助金ゼロで続けられる理由