肉を食べないスウェーデンの少女とステーキを食べに行った日本の環境大臣
2019年09月26日
スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさんが国連本部でスピーチしたことを伝える日本での報道を見て、いつもの彼女とは違って激しく怒りをあらわにしていて、驚いた。
彼女は昨年暮れからダボス会議、COP24、欧州議会、アメリカ連邦議会などでも発言しているが、内気な感じで話すのが彼女の特徴だ。気候行動サミットに集まった各国首脳のやる気のなさに、相当失望したのだろうか。
彼女についてあまり報道されてこなかった日本では、怒れる少女が突然登場して戸惑った人も多かったのではないか。
なぜ彼女が注目されているのか、もう一度振り返ってみたい。
グレタさんは2003年にストックホルムで生まれた。父親は俳優でプロデューサーのスヴァンテ・トゥンベリさん、母親はオペラ歌手のマレーナ・エルンマンさんで、スウェーデンではそれなりに知られているようだ。
グレタさんは8歳の時、地球温暖化について知った。
人間の暮らし方によって生まれた現象で、照明を消したり、リサイクルしたりするように言われた。人類が、地球の気候を変えられることが不思議でならなかった。
そんな大変なことが起きているのであれば、どうしてラジオや新聞はもっと報じないのか。どうして化石燃料を燃やすのが悪いのなら、規制がなく、違法化されないのか。疑問は膨らむばかりだった。
そういうことを考えていたら、11歳の時、うつになった。しゃべらなくなり、体重が2カ月で10キロ減った。
発達障害の一つである「アスペルガー症候群」、怖いイメージや考えが頭に浮かんで、その恐怖を打ち消すためにある行為を繰り返す「強迫性障害」、特定の場面でしか話せなくなる「場面緘黙症」と診断された。
2018年5月、地元の新聞社が主催した環境問題の作文コンテストで入賞した。作文が新聞に載ると、いくつかの環境保護団体から一緒に運動しようと誘われた。
何ができるかを話し合うなかで、グレタさんは「スクールストライキ」という運動方法に関心をもった。
その年の2月、アメリカ・フロリダ州の高校で17人が亡くなった銃乱射事件を受け、同校の生徒たちが授業をボイコットし、銃規制を求める集会を開いた。氾濫する銃によって命が危険にさらされているというのに、勉強どころではない。大人たちが子どもの命を守るという義務を果たさなければ、子どもたちだって学校に行く義務を果たせない、と訴えた。
グレタさんは、これは地球温暖化にも当てはまることに気付いた。地球の未来がむしばまれているのに、大人たちは何もしない。このまま温暖化が進んだら地球がどうなるかという科学的な予測が無視されている。大人たちが軽んじている科学を、どうして子どもたちは学校で学ばなければならないのか。大人が科学を尊重し行動を起こすまで、学校に行かずにストライキをしよう。
ところが、ほかのメンバーは「スクールストライキ」には関心を示さず、アメリカで広がりつつあった環境運動「ゼロアワー」をスウェーデンで展開しようとしていた。
そもそも社交的ではないグレタさんは、集会へ行かなくなった。両親に「スクールストライキ」がしたいと相談したら、賛同してもらえなかったという。もしやるなら、全部自分ひとりでやりなさい、と言われた。
グレタさんは8月20日から2週間、学校を休んでスウェーデン国会議事堂の前で「Skolstrejk för klimatet(気候のためのスクールストライキ)」というプラカードを掲げて座り込みを始めた。その後は金曜日だけ学校を休んで活動を続けた。
ほどなくして、環境報道に熱心な英紙ガーディアンがグレタさんの活動を報じた。「あまり笑顔を見せないお下げ髪の小柄な女の子で、気候革命を率いる典型的なリーダーではない」と紹介している。
そんな「ふつうの女の子」が、一人で、学校を休んで、大人たちが反論できない理屈を組み立てて、大人たちに変化を迫る果敢さが、世界中の若者たちの注目を一気に集めた。
組織や資金がなくても始められる気軽さ、学校を休む理屈の巧みさからか、「スクールストライキ」は世界に広がった。気候行動サミットを前に企画された世界一斉デモには、160カ国以上で400万人が参加した。
一人の少女が始めた運動が1年1カ月で大きく育ったことを端的に表すツイートが、11万件以上の「いいね」を得た。
こんなにもたくさんの若者が行動し、各国の首脳が気候行動サミットに集まったのだから、グレタさんは国連の気候行動サミットに大きく期待していたのかもしれない。どこかの首脳が「すぐにでも排出量ゼロにします」と宣言してほしかっただろう。
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