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地球温暖化~人類は北へ大移動する

あと数万年続く間氷期(温暖期)、灼熱の金星が教えてくれるのは…

木代泰之 経済・科学ジャーナリスト

 19世紀の産業革命以来、地球の平均気温は上昇を続けている。人為的なCO2(温室効果ガス)の大量排出が原因である。

 宇宙の観点で見た地球は、環境変化に繊細に反応するごく小さな一惑星でしかない。地球がいま置かれている危うい状況を、時間と空間を超えて考え直してみたい。

氷期と間氷期を10万年周期で繰り返す地球

 地球は45万年前から、陸地が分厚い氷に覆われる氷期(寒冷期)と氷が縮小する間氷期(温暖期)を10万年周期で繰り返してきた(上のグラフ)。氷期は8万年かけてゆっくり進み、その後、間氷期が急激にやってきて約2万年続くというパターンである。

 1920年にユーゴスラビアの天文学者ミランコビッチが示した理論によると、氷期と間氷期を決めるのは、①地球が太陽を周回する軌道の離心率(軌道の形が円からどれだけ離れているか)、②地球の地軸の傾き、③地球自転の歳差運動(首振り運動)という3要素の組み合せである。

 いちばん最近の氷期は約3万年前に終わり、約2万年前から現在の間氷期に入っている。氷期を乗り越えられなかったネアンデルタール人(旧人類)は絶滅したが、ホモサピエンス(現生人類)は乗り越えることに成功。その後の約2万年の間氷期に農業や科学、工業、コンピュータ産業などで急速な進歩を遂げ、現在の地球文明を作りあげた。

今の間氷期は6~7万年続く。熱波・高潮・食糧危機も

 10万年周期の理論から言えば、今の間氷期はすでに約2万年を経過しており、そろそろ氷期が始まってもおかしくない。そうなれば地球温暖化は氷期によって打ち消される――過去に温暖化を否定した科学者の中には、そう唱える人がいた。

 ところが、南極の氷をボーリングして調べる古気候の研究などによって、今の間氷期は2万年ではなく6~7万年続く見通しであることが分ってきた。それは①の離心率の影響が大きいが、近年のCO2濃度の上昇(下の図)で平均気温が上がり、氷期を始まりにくくしている面もあるという。

北緯・南緯に関係なく地球のCO2濃度は上昇している

 温暖な間氷期がこのまま更に数万年も続き、CO2を排出する経済活動が十分な対策もないまま続けば、気温は一層上昇し、地球は確実に多種多様な災害や気候変動に見舞われる。

 国連のIPCC第5次評価報告書(2013年)が、将来の8つのリスクを示している。①海面上昇と沿岸部の高潮被害、②大都市部の洪水、③極端な気象現象によるインフラの機能停止、④熱波による脆弱な階層の死亡・疾病、⑤気温上昇・干ばつによる食糧危機、⑥水資源不足と農業生産の減少、⑦海洋生態系の破壊と損失、⑧内水生態系の損失である。

2100年には産業革命以前より7度上昇という試算

 いずれも文明社会の根底が覆るほどの脅威だが、ここでは特に深刻な気温上昇のリスクを考えてみたい。

 過去の間氷期では常に残っていた北極や南極、グリーンランドの氷は、現在すでに減少している。間氷期が長引き、地球を冷やしているこれらの氷が解けてしまえば、あとは気温上昇のピッチが上がるだけだ。

 CO2は海水中に大量に溶けているが、間氷期には盛んに大気中に放出される。サイダーに含まれるCO2が夏になるとよく泡立つのと同じ理屈だ。これで大気中のCO2濃度が上がると気温をさらに上昇させ、それがまた海からのCO2放出を促す悪循環に陥る。

 9月、フランス国立気象研究センターなどが最新の気温上昇の試算を発表した。CO2排出が現在のペースで続いた場合、2100年には産業革命以前に比べて7度(現状より約6度)も上昇するという。パリ協定の目標は上昇を1.5度に抑えることだが、同センターは「上昇ピッチは従来想定より急速で、楽観的に見ても達成は困難」という。

世界は大量移民時代になる。日本人は北へ?

 気温7度の上昇は、緯度では約10度の差に匹敵する。おおざっぱに言えば、北海道稚内市やロシア領サハリンの気温が今の東京並みになる。逆に言えば、東京以南は耐え難い熱波や大洪水、高潮、1m以上の海面上昇に見舞われる。今からわずか2世代後の話である。

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