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安倍首相は「トランプ・ファースト」を貫いた

米国はもうTPPに復帰しない~日本が大幅譲歩を重ねた日米貿易交渉を総括する

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

日本マスコミは大本営発表のまま報道

 今回の交渉で、牛肉・豚肉など中西部の農家対策に、安倍首相は満額回答した。

 TPPから勝手に脱退して米国産農産物を不利に扱わせるようにしたのち、日米交渉をして、その不利を是正するという、まったくのトランプによるマッチポンプの行動なのだが、米国農業界は諸手を挙げてトランプを称賛しているという。

 そのうえ、忖度に長けた安倍首相は余剰トウモロコシまで買う約束をしてくれた。

 TPP交渉では譲歩したバターなどの乳製品やコメについての低関税の輸入枠を見送ったことを日本政府は成果とし、一部のマスコミはこの大本営発表を額面通りに受け止めて報道している。

 しかし、TPP交渉では譲歩したバターなど乳製品の輸入枠はTPP加盟国すべてに解放されたものである。これらの品目の輸出競争力があるのは、TPP加盟国でもニュージーランドやオーストラリアであって、米国ではない。この輸入枠は、米国酪農・乳業界には、活用できないものだった。

 コメは現在の無税枠10万トンすら満足に消化していない。これにTPP合意と同じく7万トンの米国向けの輸入枠を設定されても、米国のコメ業界は全く活用できない。政治的にも、日本に米を輸出しているカリフォルニアは民主党が必ず勝つ州(ブルーステイト)で、トランプがコメ業界のために頑張っても、再選にはつながらない。

 TPPで撤廃することを約束した米国の2.5%の自動車関税は、今回将来的に撤廃すると記述されたが、少なくとも来年の選挙まで撤廃されないだろう。2.5%は小さいように見えるが、日本が輸出しているのはレクサスなどの高級車なので、年間10億ドル(1100億円)の関税負担となっている。日本はTPP並みの譲歩も引き出せなかった。トランプが中西部の自動車産業の票が減少することを嫌ったからだ。

 そればかりか、安倍首相は日本の自動車企業の工場立地計画まで示して、トランプの歓心を買おうとした。これも中西部向けの選挙対策だ。

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筆者

山下一仁

山下一仁(やました・かずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1955年岡山県笠岡市生まれ。77年東京大学法学部卒業、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、農村振興局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。10年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。20年東京大学公共政策大学院客員教授。「いま蘇る柳田國男の農政改革」「フードセキュリティ」「農協の大罪」「農業ビッグバンの経済学」「企業の知恵が農業革新に挑む」「亡国農政の終焉」など著書多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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