被害者のふり 関電のガバナンス崩壊
万全なはずの内部統制システムは形式ばかり。関電会見で実態が露見した
加藤裕則 朝日新聞記者
「預かっていた」は通用しない
弁護士ら企業統治の専門家が問題視するのは、岩根社長の対応だ。
2017年春、森山氏は関電本社を岩根の就任祝いに訪れた。10月2日の会見で岩根社長は「菓子折りのようなものが入った袋をいただいた。何か高価な物が入っているかもしれないと話を聞き、開封せずに秘書に渡したところ、お菓子の下から金貨が入っていた。そこで金庫に保管しておいてくれと言った。そのときもうしっかり対応すべきだった」と説明した。他の役員についても岩根社長は「預かっていた」「保管し、返すタイミングをうかがっていた」との説明を繰り返した。
確かに返す努力はしていた。関電によると、受け取った金品のうち、4割にあたる1億2450万円分は、国税庁の調査が入る前に自主的に森山氏に返却していたという。だが、5割の1億5908万円分は税務調査を機に返還。スーツなど1割の3487万円分は今も返していない。
企業統治に詳しい遠藤元一弁護士は「預かっていたという抗弁は、使っていなかったというだけであって、通用するものではない。会社法などいろんな意味で法律に問われる可能性が出てきている。もらった時点で返さなければいけない。いろんな方法があったはずで、受け取ることは常識の範囲外だ。少なくとも個人レベルでとどめてはいけなかった」と話した。

関電の記者会家の様子
さらに専門家を落胆させたのは、関西電力というブランドだ。
直近の売上高は3兆3千億円、従業員は約3万3千人。社外取締役が4人、社外監査役4人と監視体制は整っている。監査役室のスタッフは13人で、通常の上場企業は1~3人ほどで、他社に比べて格段に充実している。経営監査室もあり、社内と社外(弁護士事務所)の内部通報制度ももうけられ、内部統制システムは、万全な体制だった。
それなのに1週間に2度の記者会見を余儀なくされたほか、当初は数十万円のスーツの仕立券を社会的に儀礼の範囲にするなど説明も二転三転した。金品受領の発覚も共同通信などマスコミの報道がきっかけだった。
企業の内部統制などに詳しい松本祥尚・関西大学教授は「最初の記者会見での説明は虚偽で、世間を欺いたとの批判は免れない。悪いと分かっていたから、儀礼の範囲を拡大解釈するなどして社長や原発部門を守ろうとしたのだろう。公益事業を担っているという意識が低い。社内調査の報告書も社内役員が入る組織がまとめたもので、説得力はない」と手厳しい。
岩根社長は会見で「コンプライアンス(法令遵守)にはふれていたが、違法性はないということで取締役会に説明しなかった」と繰り返した。これに対しても、「金品の受け渡しは重要な犯罪の可能性がある。取締役会への重要な報告事項だ」(企業法務に詳しい弁護士)との見方が支配的だ。
監査役会にも報告があったという。
監査役は取締役の業務執行の違法性や妥当性をチェックするのが仕事で、社長にモノを言うガバナンスの要とも言われる。日本監査役協会幹部は「監査役会は直ちに第三者による調査委員会を設けるように動くべきだ。そのうえで関係者の処分や公表を検討すべきケースだ。一体何をしていたのか」といぶかる。