メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

安倍一強で税制の「論理」が飛んだ

なぜ政府税調は発信力がなくなったのか

森信茂樹 東京財団政策研究所研究主幹

 去る9月26日に、政府税制調査会の中期答申「経済社会の構造変化を踏まえた令和時代の税制のあり方」が公表された。中期答申といえば、これまで3年ごとに出され、中期的なわが国の税制改革の方向を議論する格好の材料ということで、マスコミからも大いに注目を集めたものだ。

 ましてや今回は、「安倍政権初めて、9年ぶりの中期答申」なので、大いに注目されたのだが、マスコミの取り上げ方は極めて淡泊で、世の中への発信という最も重要な役割を無視されてしまったといってよい。

 その原因はどこにあるのだろうか。

「論理」を示す政府税調と「決定」する党税調

 わが国税制の決定メカニズムについて考えてみよう。

 税制改正を国民がそれなりに納得するには、「論理」が必要である。公平・中立(効率)・簡素なものであるかどうか、現下の経済情勢にフィットしているかどうか、将来のわが国の経済社会をどう見すえているのか、というような点の検証も必要となる。

 これを行うのが、総理の諮問機関で各界からの有識者を集めた税制調査会である。

 一方、租税法律主義ということで、税に関する法律改正はすべて国会の専権事項となる。またわが国のような議院内閣制の下では、与党の法令審査はマストである。

 これを担うのが与党税制調査会(以下、党税調)で、税制の「決定」の場でもある。

 党税調の実質的な「決定」は、インナーと呼ばれる場で、ベテラン政治家(党税調幹部)と財務省主税局との非公表な話し合いで大筋が決まる。透明性に欠ける、時代錯誤という批判はあるが、一方で、個別利害から離れ、専門的知識に基づく大局的判断が可能となるというメリットがある。

 与党のベテラン政治家は、長年の税制課程にかかわり、豊富な専門的知識と国家観を持つことから、業界の個別利害を超えた天下国家の議論が可能である。また、常日頃有権者と接する政治家として、「論理・正論」だけでは国民が納得しないことも熟知している。そこで、税制の「決定」機関として党税調が存在してきたのである。

 さらに重要なことは、党税調は「要求側」ではなくて「査定側」であるということである。この点、歳出予算においては、自民党の各部会が「要求側」で、財務省主計局が「査定側」となることと大きく異なっている。

 党税調は、自民党の各部会から出てきた税制改正要望を、一つずつ「査定」(○、×を付ける)し、「決定」してきた。日本経済の置かれている状況、財政の厳しい現実等を勘案した上で、さまざまな部会の要求を査定し断るという作業をする点に、党税調の権限の根源がある。

 このように、あるべき税制の「論理」を示す場が政府税制調査会、その論理に基づき実際の税制を取捨選択し「決定」するのが党税調というように、両者は長年役割分担をしてきた。

政府税制調査会であいさつする安倍晋三首相(右端)=2016年9月9日、首相官邸

安倍政権で「論理」が飛んだ

 その仕組みに「穴」をあけたのが、小泉内閣時代の経済財政諮問会議である。

 2002年の骨太方針あたりから、「経済活性化のための税制改革」を掲げ、異なる視点から税制の議論を開始し、「論理」は多様化した。

 その後、経済財政諮問会議に代わって存在感を出してきたのは、安倍「官邸」である。

 党税調と政府税制調査会が役割分担してきた税制改革の議論が多様化するということには、それなりの意義がある。税制に対する国民の関心を広げ、税制決定過程の透明性の向上にもなり、質の高い税制改正につながる。

 しかし今日の状況を見ると、そのような理想とは程遠い状況になっている。

・・・ログインして読む
(残り:約649文字/本文:約2154文字)