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ワインツーリズム 「至らず尽くさず」に価値あり

イベントに「何万人きたから成功だ」という評価は意味がありません。

大木貴之 LOCALSTANDARD株式会社代表、 一般社団法人ワインツーリズム代表理事

 ワイン産地のつくり手ら地域の人たちの力を結集してイベントを仕掛け、消費者という関係でしかなかった大都市圏のワイン好きな人たちを産地の活性化に巻き込みたい――。

 大きな予算をかけて地域で仕掛けるイベントや、都市部の一つの場所にモノとそのつくり手を集める既存の都市型イベントが多い中、こういう私たちのやり方に、どんな意図が込められているのでしょうか?

大木貴之さん提供

論座セミナー「キーパーソンから学ぶ地域プロデュース」参加者募集中


地域が持つ魅力をどう引き出し、経済的な潤いを地域の中でどう循環させていくか――。スモールビジネスからスタートできる、地域ビジネス、地域プロデュースが注目されています。社会環境も、ライフシフト、ダブルワーク、テレワークと変わりつつあります。みなさんの眠っているチカラ、地域で活かしてみませんか?

「論座」では、セミナー「キーパーソンから学ぶ地域プロデュース」を開きます。山梨で「ワインツーリズム(R)」を始めた大木貴之さんと、有田焼の再生や星野リゾートの宿泊施設のプロデュースを行う南雲朋美さんからメソッドを学びましょう。

◆開催日時・場所
10月22日(祝日)17時30分~20時30分(17時開場)
朝日新聞東京本社 本館2階読者ホール(地下鉄大江戸線築地市場駅すぐ上)
◆定員・参加費
定員90人 参加費 3000円
◆申し込みや詳しい内容
Peatixの「論座」のページへ(ここをクリックしてください

生業のノウハウをイベントに活用

 「ワインツーリズムやまなし」は、山梨県内の6市を横断するイベントに成長しました。規模でみると大きく感じるので、自治体の担当者が関わっているとよく思われますが、実際は一般社団法人ワインツーリズムの構成員3人が分担し、それぞれの本業の傍ら、本業で培ったノウハウを提供し合うことで運営の基礎を築いています。

 お客様からの電話での問い合わせを受けるコールセンターなどはありません。6市を連携させることも、ワイナリー70社とのやりとりも、地域住民やボランティアとの折衝も、ワイナリーや住民、自治体のみなさんの協力のもと行っています。

 参加費のみの収入で運営しているイベントのため、「きっとみなさん参加してくださるだろう」という不確実な状況で様々な発注を行うため、採算面では最後の最後まで緊張しています。参加者が目標に到達せず、予定される支出をまかなうまでの収入がない場合は、一般社団法人の構成メンバーへの支払いが減り、それでも足りなくて私が負担したことも何度もありました。当然構成メンバーへの人件費はありません。

 なぜこんな厳しい状況で、この活動を維持し続けるのでしょうか?

大木貴之さん提供

友人や知り合いを巻き込む

 それは、一般社団法人の構成メンバーが、この地域に住み、この地に生業を持ち、自身の友人や知り合いを巻き込んでいるからです。

 これは活動当初から協力してくださっている地域のワイナリーや住民も同じで、このイベントだけで生計を立てているわけではなく、あくまでもイベントを自分の生業の持続と発展のために、そして地域を取り巻く環境を好転させ、次の世代へつないでいくという気持ちがあるからです。

 こうした同じ地域の人たちの想いによってつくり出されたイベント「ワインツーリズムやまなし」が、いつ切られてしまうかわからない補助金を頼りにして事業を行っていたら、地域の人たちはきっとここまで協力はしてくれなかったでしょう。中心で企画運営する一般社団法人のメンバーが、苦労をしても「自分たちで自分たちの住む地域に変化を」という活動当初の想いのままにやり続けたからこそ、まわりで見守ってくれていた人たちが少しずつ協力してくださるようになり、その輪が広がってきたのだと思います。

大木貴之さん提供

最初は「ワイナリーと一緒に何かするのは無理だよ」

 このように「ワインツーリズムやまなし」は今でこそ、たくさんの人たちと一緒にイベントを実施させてもらっていますが、2008年のスタート時は、そもそも山梨のワインを地元で楽しむ土壌がありませんでした。

 「何度も挑戦したけれど、ワイナリーと一緒に何かするのは無理だよ。そんなことできたらとっくにやっているから」

 こういった冷ややかな反応の地元住民の中には、ワイナリーと共に何かをやるということをあきらめている雰囲気がありました。ワイナリー側からも、スタート時の私たちにこんな声が聞こえてきました。

 「今度のイベントはうまくいかないだろう」
 「何をやるのかよくわからない」

 しかし、「継続は力なり」の言葉どおり、12年経った今ではワイナリーにも変化がでてきました。

 「あの時話していた通りになって来たね」
 「おかげで人通りが増えたよね」

 ワイナリーは今、独自の案内ツアーを実施するところが増加しています。

大木貴之さん提供

お客さんにとっては面倒なことが多々あります

 産地に来てもらうという私たちのやり方は、ワインというモノのためだけではなく、こうした変化を地域に生み出すための取り組みとして考えています。地域の365日を意識することが重要なのです。

 そのため「至らず尽くさず」「サービス業の視点」「参加者とのネットワーキング」「地域内連携の促進」などの要素をイベントに内包させています。

 イベント「ワインツーリズムやまなし」のコンセプトは「至らず尽くさず」です。ヒト、モノ、カネのすべてが十分ではないので、至れり尽くせりをやろうとしても、他の予算がたっぷりあるところや、人手がたくさんあるところにはかないません。

 そこで、私たちは全く逆の考え方をしています。至れり尽くせりではないので、お客さんにとっては面倒なことが多々あります。

 例えば、「ワインツーリズムやまなし」のイベントは、よくあるツアーのようにコースが決まっていません。主催者が参加者を案内してあげるという形ではなく、参加者のみなさんが事前資料で予習し、自分で組み立てたコースでワイナリーをめぐってもらう形です。自分で調べてプランニングすることこそ、地域の情報が参加者に浸透していく大切なプロセスだからです。

大木貴之さん提供

観光が主目的ではないイベント

 なぜこうしたことをしているかといえば、私たちは観光が主目的ではないからです。

 そもそものスタートが、自分たちで地域の環境を変化させなければ、自分たちの生業が立ち行かなくなるという危機感からであり、目的は自分たちの生業や地域を持続できる環境に変化させていくことだからです。

 これまでの観光は、私たちが大切にしているホスト側の視点が欠落し、お客さんであるゲスト側の目線でつくられてきていました。つまり、ワイナリーのある地域をめぐってもらうことによって、参加者であるゲスト側の方々にはしっかりと楽しんでいただきながら、ゲストの人たちの消費力、コミュニケーション力を活用させてもらう意図がなかったのです。単なる観光で終わらせず、地域の日常につなげ、観光客を観光客にとどまらせないことはとても大切なことなのです。

 私の地域のとらえ方は、簡単に言うと飲食店を広げたイメージです。30席のお店には30人未満の人たちが営業中、常に来てくれていることがいちばんの幸せです。30席しかないお店にある日一度に1000人が訪れても混乱するだけです。それは長くお店を続けることにはならないのです。

 お店では、何かを販売するだけではなく、たくさんの会話が生まれます。様々な人と人とのつながりも生まれていきます。お店を持続させるためには、このつながりが大切なのです。

大木貴之さん提供

コミュニケーションが地域に活気を与える

 地域も同じはずですが、なぜか地域のイベントでは、地域のキャパシティを考慮せず、「何万人きたから成功だ」という声をよく聞きます。その地域のお店が1年分をその場で稼げてしまうのであれば別ですが、私たちの「ワインツーリズムやまなし」は、たくさん人が来たから成功ということにはあまり意味がなく、それよりも消費を介したコミュニケーションこそが地域に活気を与えると思っています。

 そのため、参加者の人たちと地域住民とのコミュニケーションがとれることを優先するので、現在のイベントの規模は多くても2500人が限界だと考えています。

 この数字も、開催実績から地域のキャパシティを考えて参加者数の上限を決めています。こうして構築される地域内外の濃淡のあるネットワークこそが、持続可能な地域を構築するために必要なものであると考えています。

大木貴之さん提供

人は誰かのために何かしたときに喜びを感じる

 イベント「ワインツーリズムやまなし」では、地場産業であるワイナリーの集積地であるということを活用し、まずはワインを求めてくる人をこの地域に呼び込むことによって、消費を介したコミュニケーションによる「地域の住民と参加者とのネットワーキング」の構築を考えてきました。

 人口減少によって一番感じるのが、人々の声がまちからなくなることです。たくさんの人が地域に来て、地場の産品を購入してくれる、食べてくれることをきっかけに会話が発生します。「美味しいね」という言葉や飲食をしたときの表情が、地域住民に大きな満足感を与えてくれます。人は誰かのために何かしたときに喜びを感じるからです。

 地域外からの人の流れは、地域内の人の意識を変えます。

 仲の良い人たちが中心となって、ご近所の人たちに声をかけて、何かおもてなしができないかと動き出したり、ワイナリーへの行き方のほか地域の建物や歴史について質問されることがあるので勉強会を定期的に実施したりする動きが自然と起こってきます。こうした「地域内連携の促進」が進んでいくことを促すのが、地域外とのネットワークだと考えています。

 地域には目には見えない溝があちらこちらにあります。地域は一枚岩ではありません。様々なわだかまりがあります。こうした複雑な地域の力学にまったく関係のない地域外の人たちの力を活用させてもらい、この溝を補っていくことが、人口が減っていく時代の地域づくりにおいて大切なことだと思います。

大木貴之さん提供

一緒に地域の変化を起こしてみませんか?

 観光はきっかけにすぎません。

 ワインツーリズムは、一度だけの観光ではなく、少しだけ面倒なこともしてもらい、地域のことを知って、地域の人とつながりを持ってもらうことで、少しずつ甲州という地域のファンを増やしていく取り組みなのです。こうしたイベントをきっかけに、人と人とがつながり、人手が足りないブドウ栽培の手伝いや収穫のお手伝いなど、観光でも移住でもない動きが目に見えて増えて来ています。こうして地域を持続させていく環境が少しずつですが整いつつあります。

 今日も私は飲食店で山梨のワインを提供し、一般社団法人のメンバーは地域を駆けまわって理想の産地に向けて小さな課題と向き合い、コツコツと改善しています。この日常があるからこそ、メンバーも地域の人たちとつながれるのです。

 台風19号によって東京への陸路が寸断され陸の孤島のように感じられる山梨ですが、幸い山梨のワイナリーへの大きな影響は聞こえてきていません。JR中央線と中央道の復旧を鑑みながら11月9〜11日に実施する「ワインツーリズムやまなし2019・秋」の準備を進めています。ぜひ秋の産地の週末をご堪能ください。みなさまの行動が地域を元気にします。一緒に地域の変化を起こしてみませんか?

大木貴之さん提供

参加者募集 論座セミナー「キーパーソンから学ぶ地域プロデュース」

 地域が持つ魅力をどう引き出し、経済的な潤いを地域の中でどう循環させていくか――。スモールビジネスからスタートできる、地域ビジネス、地域プロデュースが注目されています。社会環境も、ライフシフト、ダブルワーク、テレワークと変わりつつあります。みなさんの眠っているチカラ、地域で活かしてみませんか?

 「論座」では、セミナー「キーパーソンから学ぶ地域プロデュース」を開きます。山梨で「ワインツーリズム(R)」を始めた大木貴之さんと、有田焼の再生や星野リゾートの宿泊施設のプロデュースを行う南雲朋美さんからメソッドを学びましょう。

講師

南雲朋美さん
地域ビジネスプロデューサー、慶應義塾大学・首都大学非常勤講師。1969年、広島県生まれ。「ヒューレット・パッカード」の日本法人で業務企画とマーケティングに携わる。34歳で退社後、慶應義塾大学総合政策学部に入学し、在学中に書いた論文「10年後の日本の広告を考える」で電通広告論文賞を受賞。卒業後は星野リゾートで広報とブランディングを約8年間担う。2014年に退職後、地域ビジネスのプロデューサーとして、有田焼の窯元の経営再生やブランディング、肥前吉田焼の産地活性化に携わる。現在は滋賀県甲賀市の特区プロジェクト委員、星野リゾートの宿泊施設のコンセプト。メイキングを担うほか、慶應義塾大学で「パブリック・リレーションズ戦略」、首都大学東京で「コンセプト・メイキング」を教える。【南雲さんの記事はここから

大木貴之さん
LOCALSTANDARD株式会社代表、一般社団法人ワインツーリズム代表理事。1971年山梨県生まれ。マーケティング・コンサルタント会社を経て地元山梨へ。2000年に当時シャッター街だった山梨県甲府市に「FourHeartsCafe」を創業。この「場」に集まるイラストレーター、デザイナーや、ワイナリー、行政職員、民間による協働で「ワインツーリズムやまなし」(2013年グッドデザイン・地域づくりデザイン賞受賞)を立ち上げ、山梨にワインを飲む文化と、産地を散策する新たな消費行動を提唱。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科に入学しワインツーリズムを研究。卒業後は、山形、岩手と展開。ワインに限らず地場産業をツーリズムとして編集し直し、地域の日常を持続可能にしていく取り組みを続ける。【ワインツーリズム山梨のサイトはここから

セミナーの概要

第1部

南雲朋美さんの講演テーマ「地域の魅力の見つけ方」

地域の魅力を発見する方法とコンセプト化する考え方をお話しします。どんな地域でも、そこに人々が暮らしているのであれば、その経済を支える「何か」があります。それが魅力です。その魅力を人が納得できるコンセプトに昇華しますが、コンセプトはテーマと言ってもいいかもしれません。いずれにしても事業を行う上で、経営の礎(いしずえ)になる重要な概念です。厳しい競争の中で生き残ることができる核となる魅力を見つけましょう。

第2部
大木貴之さんの講演のテーマ「地域の日常をつないでつくるツーリズム」

地域を使ったコミュニティベースのツーリズムの手法をお話しします。たくさんの人が来ても、その消費が外に漏れてしまっては効果が薄れてしまいます。人が地域のキャパシティを越えてまでたくさん来ればいいというわけでもありません。地域のファンになってもらいリピートしてもらうその仕組みづくりのお話をします。新たな産業をつくるのではなく、既存の産業や地域のイメージを活用し、サービスからの視点で捉え、地域を次世代につないでいくヒントになればと思います。

第3部
パネルディスカッション
・南雲朋美さん
・大木貴之さん
・岩崎賢一(ファシリテーター)

※第3部終了後、講師との名刺交換もできます。

開催日時・場所

10月22日(祝日)17時30分~20時30分(17時開場)
朝日新聞東京本社 本館2階読者ホール(地下鉄大江戸線築地市場駅すぐ上)

チケット・定員

参加費 3000円、定員90人。申し込みが定員に達した時点で締め切ります。

申し込み方法

Peatixに設けられた「論座」のイベントページから参加申し込みをお願いします(ここをクリックするとページが開きます

主催

朝日新聞「論座」編集部