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ワインツーリズム 「至らず尽くさず」に価値あり

イベントに「何万人きたから成功だ」という評価は意味がありません。

大木貴之 LOCALSTANDARD株式会社代表、 一般社団法人ワインツーリズム代表理事

最初は「ワイナリーと一緒に何かするのは無理だよ」

 このように「ワインツーリズムやまなし」は今でこそ、たくさんの人たちと一緒にイベントを実施させてもらっていますが、2008年のスタート時は、そもそも山梨のワインを地元で楽しむ土壌がありませんでした。

 「何度も挑戦したけれど、ワイナリーと一緒に何かするのは無理だよ。そんなことできたらとっくにやっているから」

 こういった冷ややかな反応の地元住民の中には、ワイナリーと共に何かをやるということをあきらめている雰囲気がありました。ワイナリー側からも、スタート時の私たちにこんな声が聞こえてきました。

 「今度のイベントはうまくいかないだろう」
 「何をやるのかよくわからない」

 しかし、「継続は力なり」の言葉どおり、12年経った今ではワイナリーにも変化がでてきました。

 「あの時話していた通りになって来たね」
 「おかげで人通りが増えたよね」

 ワイナリーは今、独自の案内ツアーを実施するところが増加しています。

拡大大木貴之さん提供

お客さんにとっては面倒なことが多々あります

 産地に来てもらうという私たちのやり方は、ワインというモノのためだけではなく、こうした変化を地域に生み出すための取り組みとして考えています。地域の365日を意識することが重要なのです。

 そのため「至らず尽くさず」「サービス業の視点」「参加者とのネットワーキング」「地域内連携の促進」などの要素をイベントに内包させています。

 イベント「ワインツーリズムやまなし」のコンセプトは「至らず尽くさず」です。ヒト、モノ、カネのすべてが十分ではないので、至れり尽くせりをやろうとしても、他の予算がたっぷりあるところや、人手がたくさんあるところにはかないません。

 そこで、私たちは全く逆の考え方をしています。至れり尽くせりではないので、お客さんにとっては面倒なことが多々あります。

 例えば、「ワインツーリズムやまなし」のイベントは、よくあるツアーのようにコースが決まっていません。主催者が参加者を案内してあげるという形ではなく、参加者のみなさんが事前資料で予習し、自分で組み立てたコースでワイナリーをめぐってもらう形です。自分で調べてプランニングすることこそ、地域の情報が参加者に浸透していく大切なプロセスだからです。

拡大大木貴之さん提供

観光が主目的ではないイベント

 なぜこうしたことをしているかといえば、私たちは観光が主目的ではないからです。

 そもそものスタートが、自分たちで地域の環境を変化させなければ、自分たちの生業が立ち行かなくなるという危機感からであり、目的は自分たちの生業や地域を持続できる環境に変化させていくことだからです。

 これまでの観光は、私たちが大切にしているホスト側の視点が欠落し、お客さんであるゲスト側の目線でつくられてきていました。つまり、ワイナリーのある地域をめぐってもらうことによって、参加者であるゲスト側の方々にはしっかりと楽しんでいただきながら、ゲストの人たちの消費力、コミュニケーション力を活用させてもらう意図がなかったのです。単なる観光で終わらせず、地域の日常につなげ、観光客を観光客にとどまらせないことはとても大切なことなのです。

 私の地域のとらえ方は、簡単に言うと飲食店を広げたイメージです。30席のお店には30人未満の人たちが営業中、常に来てくれていることがいちばんの幸せです。30席しかないお店にある日一度に1000人が訪れても混乱するだけです。それは長くお店を続けることにはならないのです。

 お店では、何かを販売するだけではなく、たくさんの会話が生まれます。様々な人と人とのつながりも生まれていきます。お店を持続させるためには、このつながりが大切なのです。

拡大大木貴之さん提供

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筆者

大木貴之

大木貴之(おおき・たかゆき) LOCALSTANDARD株式会社代表、 一般社団法人ワインツーリズム代表理事

1971年山梨県生まれ。マーケティング・コンサルタント会社を経て地元山梨へ。2000年に当時シャッター街だった山梨県甲府市に「FourHeartsCafe」を創業。この「場」に集まるイラストレーター、デザイナーや、ワイナリー、行政職員、民間による協働で「ワインツーリズムやまなし」(2013年グッドデザイン・地域づくりデザイン賞受賞)を立ち上げ、山梨にワインを飲む文化と、産地を散策する新たな消費行動を提唱。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科に入学しワインツーリズムを研究。卒業後は、山形、岩手と展開。ワインに限らず地場産業をツーリズムとして編集し直し、地域の日常を持続可能にしていく取り組みを続ける。

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