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ボリス・ジョンソンの譲歩~舞台は英議会へ

英国首相は北アイルランドと英国本土の間に国境を引く選択をEUに飲まされた

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

 現地時間10月17日10時半ころ、ボリス・ジョンソン英国首相とユンカー欧州委員会委員長がともにイギリスとEUとの合意を発表した。合意内容、合意に至るまで何が争点となったかという経緯とこれを踏まえた現時点における今後の見通しを述べたい。

10月中旬になって交渉加速

 10月31日のEU離脱期限が近付いてブレグジットの交渉が切迫した。10月中旬になって、合意なき離脱でも10月31日に離脱すると主張してきたボリス・ジョンソン英国首相が、合意ある離脱を真剣に模索し始めた。

 メルケル独首相がジョンソンの提案は受け入れられないと主張したと伝えられた際には、合意への機運はしぼんだ。しかし、その後のジョンソン首相とアイルランド首相の会談で、北アイルランドの国境問題についてのジョンソン首相の新提案をアイルランド首相が評価したことから、この提案をEU側が真剣に検討し始め、イギリスとEUとの交渉が深夜に及んでまで行われるようになった。

 私は10月11日からイギリスに来ているが、BBCなど現地の報道は合意への期待と失望の繰り返しで、荒海の中の小舟のようだった。

 16日の深夜になって、事務的には、ようやく原則では大筋の合意ができた。しかし、これがEU首脳会議で正式に承認されるためには、法律文書として協定案に落とし込まなければならない。

 今決まっているスケジュール通りだと、17~18日に開かれるEUの首脳会議でイギリスとEUの合意案が了承され、その後19日にイギリス議会が承認すれば、10月31日に合意ある離脱、そうでなければジョンソン首相はEUに3か月の離脱期限の延長を申し出ることになる。この延長をEUが認めなければ、10月31日に合意なき離脱となる。

 しかし、EU首脳会議まで協定案が間に合わなければ、首脳会議では合意のアウトラインを記した政治的な合意文書だけが承認され、これが19日にイギリス議会で多数の承認が得られれば、月末のEU首脳会議とイギリス議会で法律文書として協定案が了承され、合意ある離脱が実現する。

 なお、合意ある離脱の場合には2020年末までの移行期間が認められることから、10月31日にイギリスが離脱するわけではない。

拡大ジョンソン英首相=2019年8月26日、フランス・ビアリッツ


筆者

山下一仁

山下一仁(やました・かずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1955年岡山県笠岡市生まれ。77年東京大学法学部卒業、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、農村振興局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。10年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。20年東京大学公共政策大学院客員教授。「いま蘇る柳田國男の農政改革」「フードセキュリティ」「農協の大罪」「農業ビッグバンの経済学」「企業の知恵が農業革新に挑む」「亡国農政の終焉」など著書多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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