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福島と嫌韓~映画『一陽来復』尹美亜監督に聞く

被災者、こころの再生の軌跡/韓国公開と在日韓国人であること

原真人 朝日新聞 編集委員

原因は無知にあり、デマを信じ切っている

――撮影は長期に及び経費もかかって、たいへんだったのではないですか。

 『一陽来復』の撮影は10カ月間に30回、のべ60日にのぼりました。

 復興庁の補助金事業の対象となったことも大きかったですね。復興庁は震災後の最初の5年間はインフラ事業に力を入れましたが、次の5年は『心の復興』をうたっていました。その最初の年のプロジェクトに映画とワークショップの2本立てで応募したら、採用されたのです。

 復興庁もまだ手探りの時期だったので、映画も事業に採用してみようということだったのだと思います。1980万円の補助金をもらったおかげでスポンサーのプレッシャーもなく、記録を残すことに没頭できました。

――日本公開から1年後の2019年3月、韓国でも劇場で公開されました。韓国語で「春は、来る」という意味の「ポムン オンダ」というタイトルがつけられたそうですね。

 この映画に感動してくださったある日本人女性が、韓国の知り合いに熱心に話してくれたことがきっかけで、韓国の大手配給会社がついて公開が実現しました。現地では大手新聞などいくつもの媒体が記事に採り上げてくれました。東日本大震災の復興に力を貸したい、という多くの日本人や韓国人が無償で協力してくれたおかげです。

 でも韓国では東日本大震災以降、福島の放射線被害について現実以上に被害や影響を深刻に伝えるニュースやデマが広がり、イメージが悪化していました。東京以北は被ばくの危険がある、行かないほうがいい、と誤った認識を持つ韓国人が多いのです。

 そこに頭を悩ませていたソウルの日本大使館が、映画の宣伝に全面的に協力してくれることになりました。大使館主催で上映会とレセプションをソウルの映画館で開くことになりました。『一陽来復』には福島の放射線被害以外の東北の日常が描かれており、その点を評価してくれたようです。

 上映イベントには石巻の遠藤伸一さん、綾子さん夫妻と私が招かれました。長嶺安政大使のあいさつで始まったイベントは日韓親善関係者で満席となり、たいへんな熱気に包まれました。

――韓国では福島の風評被害がやんでいないのですね。

 そういう話を聞くと、福島の方たちの顔が浮かんで涙が出るほど悔しかったです。でも、落ち着いて考えると、これは日本で嫌韓を叫ぶ人たちと同じ思考構造ではないかと思いました。どちらも原因は無知にあり、デマを信じ切っている。噓を何回も語られているうちに本当だと刷り込まれてしまう。そんな危うさがいずれにもあります。

 お互い顔が見える関係にないというところも共通しています。個人的に顔が見える関係がないから、集団化したイメージばかりがふくらんで、恐怖心や嫌悪があおられているのだと思います。だから、風評被害について私ができることは、とにかく現地から情報を発信し続けることだと考えています。

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筆者

原真人

原真人(はら・まこと) 朝日新聞 編集委員

1988年に朝日新聞社に入社。経済部デスク、論説委員、書評委員、朝刊の当番編集長などを経て、現在は経済分野を担当する編集委員。コラム「多事奏論」を執筆中。著書に『日本銀行「失敗の本質」』(小学館新書)、『日本「一発屋」論 バブル・成長信仰・アベノミクス』(朝日新書)、『経済ニュースの裏読み深読み』(朝日新聞出版)。共著に『失われた〈20年〉』(岩波書店)、「不安大国ニッポン」(朝日新聞出版)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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