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グーグル・量子コンピューターで「超計算」に脚光

波動、化学反応、光、生物進化。自然界には超計算がいっぱい。計算パラダイムが始まる

木代泰之 経済・科学ジャーナリスト

NEC研究員だった中村氏が先駆的役割果たす

 ゲート方式は元々、NEC基礎研究所研究員だった中村泰信氏(現在・東京大学先端科学技術研究センター教授)が発明し、量子ビットが1個という基礎的なコンピュータ素子を作成した。グーグルは今回、53個の量子ビットをつなげたが、IBMは近く56個つなげると表明して競っている。

 両社以外にも、例えば米国防総省傘下の研究機関が1990年代から量子コンピュータを研究している。ところが2000年代にはいると、専門誌への論文発表がぱったり止まり、2018年には「量子情報科学の国家戦略」が策定された。

 東京工業大学の細谷暁夫名誉教授は「どんな暗号でも短時間で解読できる能力は極秘の軍事技術。開発の進展状況を知られたくないのだろう」と推測する。暗号の多くは、スパコンでも解読に長年月かかることをもって「解読不能」としており、これが破られる可能性が出て来るのだ。

 また量子コンピュータはAIとの相性がよく、軍事面だけでなく創薬、素材開発、自動運転、金融などで圧倒的な力を発揮する。日本でも危機感を深めた自民党が量子技術推進議員連盟(会長・林芳正元文部科学相)を発足させ、研究を後押しすることを決めた。

日本は基礎研究でリードするも、実用化で米国に後れ

 もう一つの方式であるアニーリング方式だが、この基礎理論を確立したのは、やはり日本人で、東京工業大学の西森秀稔教授である。

 このように日本は基礎研究でリードしながら、実用化に向けた動きで米国勢にすっかり後れを取ってしまった。

 1990年代のバブル崩壊後のエレクトロニクス産業衰退や、相次ぐ企業の中央研究所廃止などが背景にある。今や研究資金、研究者数で見劣りするため、どこまで挽回できるか楽観はできない。

自然界に溢れている「超計算」のタネ

 さて、自然界に起きる現象を利用する「超計算」(自然計算ともいう)は、量子コンピュータだけではない。現在、様々な研究が進んでいるので、いくつか事例を紹介しよう。

 まず波動計算。空間や物質(媒質という)の中を伝わる振動を波動と言い、媒質中でスピードが変わったり、重ね合わせが起きたり、干渉や屈折、共鳴の現象が起きたりするので、これを計算に使う。日本IBMの片山泰尚氏は、専門誌で波動計算を提案し、年間ベスト論文賞を受けた。

 化学反応については、東京大学教授の萩谷昌己氏が、多種類の分子を試験管の中に入れて振る実験を行った。すると化学反応によって分子同士が様々に結合した。同教授は「化学反応の一つ一つが計算であり、試験管の中で膨大な計算が行われた」と解説する。

 光も超計算に使える。米ウィスコンシン大学は、内部に空気の泡を閉じ込めた小さなガラス板を利用する計算を研究している。光を横から入れると、光は内部で散乱・反射されて反対側から出てくる。入った光と出てきた光を対応させれば、光速度での計算が可能になるという。

 そして生物進化である。生物の遺伝子は突然変異を起こし、環境変化に適したものが生き残る。このプロセスは進化計算と呼ばれ、数学的には「最適化問題」(与えられた条件の下で、多くの選択肢の中から一番良いものを選ぶ問題)を解いているのと同じなのだ。

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筆者

木代泰之

木代泰之(きしろ・やすゆき) 経済・科学ジャーナリスト

経済・科学ジャーナリスト。東京大学工学部航空学科卒。NECで技術者として勤務の後、朝日新聞社に入社。主に経済記者として財務省、経済産業省、電力・石油、証券業界などを取材。現在は多様な業種の企業人や研究者らと組織する「イノベーション実践研究会」座長として、技術革新、経営刷新、政策展開について研究提言活動を続けている。著書に「自民党税制調査会」、「500兆円の奢り」(共著)など。

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