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「リブラ」を米政府が認可しない本当の理由

リブラが普及するほど各国中央銀行の利益は減る。政府の特権に正面から挑戦している

吉松崇 経済金融アナリスト

デジタル通貨と仮想通貨はどう違うのか?

 今年の6月、フェイスブックがデジタル通貨「リブラ」の発行構想を発表した。

 だが、フェイスブックがこの構想を発表するや否や、米金融当局や議会から、金融システムへの悪影響やマネーロンダリングを懸念する批判が相次いでいる。

 アメリカばかりではなく、G20財務相・中央銀行総裁会議も、10月18日、「フェイスブックが主導するリブラなどのデジタル通貨には深刻なリスクがある」との合意文書を発表した。

 10月23日の米議会での公聴会では、フェイスブックのザッカーバーグCEOが議員たちの激しい批判に曝されて、「米当局の承認が条件である」と言明せざるを得なかった。 

 どうやら、「リブラ」は四面楚歌である。

 「リブラ」の着想は、ビットコインのような仮想通貨にヒントを得ている。 

 仮想通貨元年といわれた2017年には、ビットコインなどの仮想通貨の価値が著しく上昇して、日本でも「億り人(おくりびと)」と呼ばれるにわか成金が多数誕生したことがニュースとなった。

 「億り人(おくりびと)」が誕生したのは、仮想通貨バブルが発生したからだ。

 一方で、価値が大きく変動すると、通貨としては困ったことになる。そもそも人びとが通貨を保有する動機は、通貨が価値の保蔵手段であり、また、取引の決済に使用できるからである。しかし、価値が大きく変動する通貨は、取引の決済には向かない。

 価値が大きく上昇すると見込まれる通貨は、保有している人が手放そうとしない。また、もしも価値が大きく下落すると思えば、人びとはこれを受け取らない。だから、そういう通貨は取引の決済には不向きなのである。

 実際、ビットコインのような仮想通貨は、人びとの投資(投機)の対象にはなっても、取引の決済にはほとんど使われていない。

 とはいえ、仮想通貨には大きなイノベーションがあった。それは、資金決済の情報伝達のための通信手段の部分である。

 通常の資金決済の手段である銀行間送金では、銀行と銀行を結ぶ専用回線が使われるが、仮想通貨の決済はインターネットを通じて行われる。

 勿論、専用回線に比べてインターネットは、真正な取引か否かの確認という面での安全性が劣る。そこで、仮想通貨ではブロックチェーンと呼ばれる暗号を使用することで、インターネットの弱点を克服しているのだ。これにより、専用回線に比べ、はるかに低コストでの資金決済が実現できる。

 仮想通貨の資金決済方法を継承しながら、一方で、通貨価値の変動を抑える仕組みを構想したものが「リブラ」である。

 フェイスブックは、リブラの発行にあたり、米ドルやユーロ、円など、世界の主要な法定通貨をその裏付け資産として100%保有する、としている。つまり、リブラの価値は、米ドルやユーロ、円などの裏付け資産の価値に連動するという制度設計なのである。

 フェイスブックは、仮想通貨との違いを強調するために、リブラを「ステーブル(安定した)通貨」と呼んでいる。

 なお、仮想通貨やリブラが「デジタル通貨」と呼ばれるのは、米ドルや円などの法定通貨とは異なり、物理的な現金(貨幣や紙幣)が発行されず、これらの価値単位がインターネット空間を行き来するだけだからである。また、ブロックチェーンという暗号技術の使用が大前提なので、これらは「暗号通貨」とも呼ばれる。

拡大リブラ事業を担うフェイスブック子会社代表のデビッド・マーカス氏=2019年7月16日、米上院の公聴会で

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筆者

吉松崇

吉松崇(よしまつ・たかし) 経済金融アナリスト

1951年生まれ。1974年東京大学教養学部卒業。1979年シカゴ大学経営大学院(MBA)修了。日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)、リーマン・ブラザース等にて30年以上にわたり企業金融と資本市場業務に従事。10年間の在米勤務(ニューヨーク)を経験。2011年より、経済・金融の分野で執筆活動を行う。著書:『労働者の味方をやめた世界の左派政党』 (PHP新書、2019年)、『大格差社会アメリカの資本主義』(日経プレミアシリーズ、2015年)。共著:『アベノミクスは進化する』(中央経済社、2017年)。

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