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英国総選挙でも「合意なき離脱」は十分にある

急転直下の英国総選挙。ジョンソン首相率いる保守党が優位との見方が広がるが…

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

保守党の支持率は高いけれど…

 イギリスのEU離脱期限だった10月31日の少し前に、私は4人の人たちと民放のテレビ討論番組に出演した。議題はブレグジットだった。

 保守党のジョンソン首相はEUと合意したばかりの離脱協定案に対する賛成票を固めるために、総選挙を実施する法案を提出していた。

 生放送だったが、放送開始直前、それまでジョンソン首相が提案する総選挙の実施に反対していた労働党のコービン党首が賛成に転じるというニュースが流れ、12月12日に総選挙が行われることは確実になった。

 このニュースを聞いて、テレビ番組に出演した人の多くがジョンソンの主張が実現するのではないかという予想を持つようになったと思う。

 この直前に行われた10月28日の議会投票では、総選挙の実施は否決されていた。ある意味、急転直下の展開となった。

 コービンは、賛成を表明した理由を、合意なき離脱の可能性がなくなるまで総選挙に賛成しないというこれまでの主張が、EUが来年1月末まで離脱期限を延期したことでなくなったからだと説明した。つまり、合意なき離脱の可能性がもはや存在しないと判断したと主張したのである。

拡大労働党・コービン党首=2016年2月27日、ロンドン・トラファルガー広場

 しかし、総選挙の結果いかんでは、合意なき離脱が逆に高まる可能性が出てきた。

 総選挙の実施法案が可決される前後の時期では、保守党の高い支持率を背景として、選挙では保守党が勝利し、ジョンソンの離脱協定案が可決され、来年1月末まで合意あるブレグジットが実現するだろうという予想や期待があったように思われる。テレビ番組では、私以外の人はそのような主張のようだった。

 私は、必ずしもそうなるとは限らないという考え方を示した。

 ジョンソンの前任者のメイも、ジョンソンと似たようなことを考えて2017年に総選挙を実施した。当時も保守党は労働党に10ポイント以上の支持率の差をつけていた。結果は、保守党は全国的には42%という高い得票率を実現したものの、過半数を失い敗北した。この42%という数字は、最近の各種世論調査で公表されたジョンソンの保守党に対する支持率のうち最高の値に等しい。保守党は、北アイルランドのミニ政党と連立を組むことで、かろうじて過半数を確保することができた。

 今回もこのようなことが起きないという保証はない。小選挙区では、最も多い票を獲得した人が当選する。ブレグジットを支持する人が多い選挙区でも、各得票率が、保守党35%、ブレグジット党25%、労働党37%なら、労働党の候補者が勝つ。

 しかも、全国的に平均して支持率が高いということは、小選挙区制のもとで勝利する保証にはならない。

 日本と違い分断が深まっているアメリカでは、選挙結果は、都市部および郊外は民主党、地方・農村部は共和党というように、はっきり色分けされるようになっている。同じことがイギリスでも起きている。

 ブレグジットについては、イングランドやウェールズではロンドンなどの都市部は反対、地方・農村部は賛成が上回り、スコットランドや北アイルランドでは反対が上回っている。トランプが地方・農村部の白人のブルーカラー労働者の支持を得ているように、ジョンソンもこの層にアピールしようとしている。イギリスでも社会の分断が強まっている。

 州単位で小選挙区制と似たような制度で行われるアメリカの大統領選挙でも、2016年にトランプは全米的にはクリントンよりも少ない得票(率)だったのに勝利した。

 今回のイギリスの総選挙でも、地方・農村部では保守党が優位だろうが、ブレグジット反対の人たちが多いそれ以外の地域で保守党が勝てるかどうかわからない。全国での平均的な政党支持率はあてにならない。

 また、2016年の国民投票ではEU離脱派が52対48というわずか4%の差で勝利しただけであり、その後の世論調査では、残留を支持する人の割合が上回っていた。ブレグジットを巡っては、国論は真っ二つに割れている。

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筆者

山下一仁

山下一仁(やました・かずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1955年岡山県笠岡市生まれ。77年東京大学法学部卒業、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、農村振興局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。10年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。「フードセキュリティ」「農協の大罪」「農業ビッグバンの経済学」「企業の知恵が農業革新に挑む」「亡国農政の終焉」など著書多数。

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