大日向 寛文(おおひなた・ひろぶみ) 朝日新聞経済部記者
1975年生まれ。3年間の中央官庁勤務後、2001年朝日新聞社入社。自動車、鉄鋼業界、メガバンクや金融庁の担当後、2012年から14年までは財務省担当として、消費増税法やその後の安倍政権の予算編成を取材した。3年間の名古屋経済部キャップを経て、2017年4月から東京経済部記者。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
安倍首相の「双方にとってウィンウィンとなる協定」を独自試算で否定する!
政府の様々な試算はみな、自動車関税の撤廃が実現したことを織り込んで計算している。
例えば、日米両国の関税削減額だ。
日本が米国に輸出する際の削減額 2128億円
米国が日本に輸出する際の削減額 1030億円
これをもとに、内閣官房の渋谷和久・政策調整統括官は、「倍ぐらいの(日本の)勝ち越しだ」と説明する。安倍晋三首相も「双方にとってウィンウィンとなる協定となった」と成果を強調してきた。
野党は国会審議で「自動車関税撤廃は約束されていない」として、自動車を除く関税削減額の公表を求めてきたが、政府は拒み続けてきた。理屈は「撤廃することになっているので交渉結果に反する」。11月19日に衆院で協定の承認案を可決し、参院審議が始まった。
日本は戦後、自由貿易を進めるブレトン=ウッズ体制のもとで成長してきた。私は相互に関税を引き下げる貿易協定は、大いに進めるべきだと考える。ただ、政府が不都合なデータを国民に隠したまま、国会が承認するのは、正しい政策決定のプロセスとは言えないのではないか――。
そう考えて朝日新聞は独自に、自動車関税撤廃が実現しなかった場合の関税削減額を試算した。正確性を担保するため、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの中田一良・主任研究員の助言を受けた。