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トランプの意に反する証言をしたビンドマン

大統領弾劾に垣間見えたアメリカの良心/翻って日本は…

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

外交の裏ルート

 政府関係者の議会証言により明らかとなった事実は、次のとおりである。

 トランプは短い電話会談の記録を公表して事実を否定したが、これを傍聴した複数の職員は、トランプがウクライナ大統領に圧力をかけたことをはっきり聞いたと証言している。長年行われてきたブリズマの汚職問題とハンター・バイデンとは何の関係もない(関連付けようとするのは針に糸を通そうとするようなもの)。2016年大統領選挙に介入したのはロシアでありウクライナではない。

 ウクライナ政府に対するルートに、ロシアの脅威を抑制するためにウクライナを援助しようとする国家安全保障政策(national security policy)上の公式なルートの他に、トランプの再選を実現するために、2016年選挙でロシアの介入を否定したり、政敵バイデンの評価を貶めたりしようとする非公式の裏ルートが存在した。公式なルートを担当している国務省の職員たちは、裏ルートの活動を知らされなかった。国家安全保障会議の元欧州ロシア部長のヒルは、裏ルートを国内政治の使い走り(domestic political errand)と痛烈に批判した。

 裏ルートに関与しているのは、トランプの他に、トランプの民間法律顧問であるジュリアーニ元ニューヨーク市長、ポンペイオ国務長官、ソンドランド駐EU大使、ミック・マルヴェイニー首席補佐官代行たちである。

 ジュリアーニは公式ルートで活動する駐ウクライナ大使が邪魔だと考え、彼女に誹謗中傷を加えたうえ、ポンペイオに指示して理由を告げずに大使職を解任させている。彼女は、突然次の飛行機でアメリカに帰国するよう命令されたという。議会証言中も、トランプはソマリアなど彼女が赴任する先々でその国はおかしくなっていると非難した。

 裏ルートの関係者でウクライナ政府と接触したのは、ソンドランドである。

拡大米下院の公聴会で証言するソンドランド駐EU米大使=2019年11月20日、ワシントン

 かれは民間のホテルマンでトランプに百万ドル以上の献金をしたことで駐EU大使となった。ウクライナはEUに属してなく、駐EU大使は対ウクライナ外交をする公式な権限はない。

 証言を求められたソンドランドは、最初トランプの介入を否定していたが、ほとんどの証人がこれを認めたことから、前言を翻した。ウクライナのレストランからトランプにかけた電話は、トランプの声が大きかったことから、重要な部分をウクライナのアメリカ大使館員に聞かれている。その大使館員もこの電話でトランプがウクライナに捜査するよう求める発言をしたことを証言している。ソンドランドはこの大使館員に、トランプにとって重要なのはロシアへの対抗ではなく、バイデンの捜査だと述べた。

カルト集団となったトランプ共和党

 この一連の議会証言で、醜さを示しているのが、トランプと共和党議員たちである。

 まず、ホワイトハウスは、議会からの資料要求を拒否するばかりか、職員に議会の喚問に応じないよう要求した。そして議会の承認申請に応じた職員にトランプは非難・中傷を浴びせている。特に、トランプがウクライナ大統領に圧力をかけた部分を削除した電話記録を公表したことは、捜査妨害の疑いが高い。

 共和党議員たちもトランプに忠誠心を見せようと必死である。来年は下院議員の全てが改選を迎える。トランプに逆らうと共和党の予備選挙で対立候補を立てられ、本選に立候補すらできなくなる。トランプが、内部告発者の氏名を公表して証人喚問すべきだと主張すると、オーム返しに同じ主張を行う。こんなことをすれば、だれも怖くて内部告発しようとはしなくなるはずだが、その道理が通じない。

 ある共和党議員はこの審査の始まりとなった内部告発者を喚問すべきだと主張したところ、民主党議員から「その通り。これを始めたトランプ大統領の召喚を歓迎する」と切り返されている。また、審査している下院情報活動委員会の共和党筆頭委員にも裏ルートの工作に関与したという疑惑が上がっている。

 残念ながら、今の共和党はトランプを教祖とするカルト集団のようだ。

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筆者

山下一仁

山下一仁(やました・かずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1955年岡山県笠岡市生まれ。77年東京大学法学部卒業、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、農村振興局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。10年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。20年東京大学公共政策大学院客員教授。「いま蘇る柳田國男の農政改革」「フードセキュリティ」「農協の大罪」「農業ビッグバンの経済学」「企業の知恵が農業革新に挑む」「亡国農政の終焉」など著書多数。

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