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「温暖化で沈む国」ツバルの現実

ツバルの人がずっと住み続けたいと望んでも、彼らの力だけでは未来を実現できない

河尻京子 NPO法人ツバル・オーバービュー理事

「国が沈む」と言われることへの違和感

 初めてツバルに来たのは2007年。その時は3カ月ほどの滞在で、離島で300人ほどの全島民に温暖化や海面上昇についてインタビューするボランティアをした。

 漁師などは、子どものころに比べて変化を感じると答えたが、ほとんどの人は温暖化や海面上昇というのはニュースで聞いた話として認識していた。

 また、90%以上がキリスト教徒のツバルでは、旧約聖書の創世記に記されるノアの方舟(はこぶね)の話から、神は虹を示し、人類を二度と大洪水で滅ぼさないと約束したから、海面上昇は起こらないと答える人もいた。

 その後もツバルは「温暖化で沈む国」などとメディアの注目を集め、世界中で紹介され続けている。

 2015年には大型のサイクロン「パム」がツバル近くを通過し、国民の45%が住む場所を追われ、家畜を失うなど大きな被害をもたらした。押し寄せた波で雨水タンクも流され、深刻な水不足に陥った。

拡大島で一番狭い海沿い道路。満潮時は波をかぶる。

 これを機に、ツバルはさらに温暖化外交に力を入れるようになった。パリ協定に関する条約交渉では、温暖化の影響に最も脆弱な国の代表として、大きな役割を果たすまでになった。同時に、温暖化対策の名目で様々な援助を世界中から受けるようにもなった。

 ツバル政府が温暖化について積極的に世界に向かってアピールするようになり、国内でも災害や温暖化対策を導入したこともあり、国民も温暖化について以前よりは関心を持ち、自国の問題ととらえる人が増えたように感じる。

 しかし、自分の国が沈んでなくなると言われることには、とても複雑な思いがあるようだ。

 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によると、1977年以降に集めたデータをみると、ツバルの首都フナフティの海面は毎年平均で最大約4ミリ上昇していると指摘している。

 農園や畑への塩害、そして大潮の時には、地面から海水がにじみ出たり、民家に海面が迫ったり、波が道路にかかって通行が難しくなったりすることはもう日常の一部となっている。

 もし、大潮の満潮時にサイクロンが来たら、甚大な被害をもたらすことは私でも容易に想像できる。その時、現在の政府の温暖化対策や災害対策で果たして十分なのかと心配になる。

 一方で、海面は上昇しているという認識がある人でも、「国が沈む」と言われると「事実に反する」と反論する人も多い。そして、「国が沈んでなくなる」という話はしたがらないし、そうはならないと信じている。

 メディアでは「環境難民」「気候変動難民」という見出しが躍り、あたかも国土を失ってさまようになる人たちのように取り上げられるが、温暖化の影響を受けつつも、ツバルの人たちはずっとツバルに住み続けることを望んでいる。

 住み慣れた土地で愛する家族と共に食べ、笑い、歌い、踊り暮らす。家族の幸せや子どもの幸せを願いながら。それは、私たちと何ら変わりはない。

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筆者

河尻京子

河尻京子(かわじり・きょうこ) NPO法人ツバル・オーバービュー理事

1970年生まれ。2017年大阪大学大学院国際公共政策研究科を修了し、修士(国際公共政策)を取得。同研究科博士後期課程在籍。1996年より温暖化の国際交渉に、地球環境市民会議や気候ネットワークなどNPO代表として参加。COP21ではツバル政府代表団の一員となる。全国地球温暖化防止活動推進センター勤務時にツバルと関わり始め、2019年ツバル駐在に。