70歳までの「就労機会」と「年金制度」改革
2019年12月03日
われわれは「人生100年時代」を迎え、この長寿社会を生き抜くためにはより長い就労が必要となる。政府は「70歳までの就労機会の確保」を掲げ、更なる定年の延長を検討中だ。今年は5年に一度の年金制度の見直しが行われている。「在職老齢年金」や「短時間従業者への制度の適用拡大」、「年金の受給開始時期を75歳まで繰り下げる選択肢の拡大」などが議論されている。
「在職老齢年金制度」は、賃金と報酬比例部分の年金を合わせた収入が基準額を超えると年金支給額が減額される制度だ。60~64歳の在職老齢年金制度(低在老)で月額28万円、65歳以上の高在老で47万円の現行の基準額を緩和しようというのだ。
65歳以上の高在老の見直しでは、減額基準を現役男子被保険者の平均月収と65歳以上の在職受給権者全体の平均年金額の合計51万円にする案が有力だった。しかし、高所得者を優遇することで高齢世代内の一層の経済格差が拡大し、将来世代の所得代替率の低下を招くことから現状で据え置くことになった。
一方、60~64歳の低在老では、就業意欲を損ねないように47万円に引き上げる方針だ。支給停止対象者数は67万人から21万人に、支給停止対象額は4800億円から1800億円に減少し、新たに約3000億円の年金財源が必要になる。ただし、年金の受給開始年齢の段階的引き上げに伴い、男性は2025年度、女性は2030年度以降に対象者がなくなる。
人口減少が続く日本では、労働力人口確保のため高齢者や女性の就業促進が不可欠だ。そのため高齢者の就業意欲を阻害する可能性のある在職老齢年金制度を将来的に廃止するという考えもある。しかし、両者の因果関係は明らかではなく、今回は富裕層優遇との批判が多いことから、60~64歳の低在老の見直しだけが実施される見通しだ。
現在の厚生年金制度を持続可能にするためには、制度の支え手を増やすことが必要だ。
もともと在職老齢年金制度は2000年の年金制度改正において、賃金と年金の合計金額が現役世代の賃金収入を超える60歳代後半の高齢者の年金支給停止を決めたものだった。経済的に豊かな高齢者が現役世代の負担を軽減し、高齢世代内の大きな収入格差を縮小することが求められたからだ。
今回の年金改革では、パート従業者など非正規雇用者への適用拡大が検討されている。現在の厚生年金制度に加入するための「従業員501人以上の企業で、週20時間以上働き、月収8万8千円以上」などの適用条件を段階的に緩和するものだ。
厚生労働省の試算では、対象事業所規模を51人以上に引き下げると加入者は65万人、撤廃すると125万人増えて、年金制度の安定化につながる。ただし、厚生年金の保険料は労使折半のため、中小企業では保険料負担が経営の重荷になるのではないかという懸念もある。
今日では非正規労働者の割合は約4割に上り、人生100年時代のセーフティネットとして、将来の低年金や無年金の人の増加をどう防ぐかも重要な課題だ。働く人の雇用形態や企業規模で処遇が異なることは不合理であり、政府は企業規模の撤廃に向けて改革を進めるとしている。
本格的な人口減少時代を迎え、高齢期の就業人口の確保は重要な課題だが、加齢が進む高齢期の働き方は現役時代と大きく異なる。これまでの厚生年金制度の適用事業所で適用条件を満たす働き方が望ましいとは限らない。
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください