メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

アマゾンと消費税

日本出版者協議会相談役・緑風出版社長の高須次郎氏に聞く(下)

臺宏士 フリーランス・ライター

利益を圧縮するアマゾンジャパン

高須氏 ところで、日本法人のアマゾンジャパンは、どうなのでしょうか。アマゾンの日本市場の売り上げは1兆円を遙かに超えているのに、法人税額が同規模の業種の売り上げに比べて10分の1にも及ばないことが新聞報道などで浮かび上がっています。

 後で詳しく触れますが、その主な理由は、たとえば本の売上げの場合はアマゾンジャパンの売上げではなく、米Amazon.comの販売子会社であるAmazon.com Int’l Sales,Inc.(米シアトル)になっていて、アマゾンジャパンはサイト運営と商品受注発送業務の委託を受けているだけなのです。

 当然、アマゾンジャパンの売上げは業務委託手数料になり圧縮されたうえ、米アマゾンはインターネットを使った販売システムについて、高額な使用料をアマゾンジャパンから徴収していて利益はさらに圧縮されているからとみられています。こうした手法による法人税の調整も大きな問題です。

――消費税が10月1日から10%に引き上げられました。高須さんは、著書『出版の崩壊とアマゾン出版再販制度<四〇年の攻防>』(論創社)のなかで、米アマゾンが本体に消費税分を上乗せした価格で販売しながら、消費税分を日本には納めていないのではないか、という疑いを指摘しています。

高須氏 書籍の販売というのは利益率が低く、いわゆる町の本屋さんでは1%程度です。それにもかかわらず、学生に限っているとはいえ、アマゾンが10%という高率でのポイントの還元がなぜできるのかが不思議でなりませんでした。

 消費税に絡んで最初に問題となったのは、海外から配信される音楽ソフトや電子書籍についてです。以前は、購入者が日本国内であっても、配信元が海外事業者であることから課税は対象外でした。同じ商品でも配信元が日本国内だと事業者は消費税を徴収し、納税する必要がありました。日本の事業者は価格競争上、不利でした。

 公平な課税を国に求めた結果、消費税法が改正され、2015年10月からは海外事業者から購入した電子的な商品・サービスに対しても消費税が課されるようになりました。米アマゾンもこの国境を越えた電子商取引に関する消費税の登録国外事業者になっています。

 そういう視点でアマゾンの取引を観察していくと、次には奇妙な領収書の表記に気づきました。

 日本の多くの利用者は、アマゾンジャパン(東京都目黒区)が運営するサイト「amazon.co.jp」から書籍を購入しているために、アマゾンジャパンから書籍を購入し、国内の倉庫から配達されるのだと思っているでしょう。代金として請求される金額が、本体価格に消費税分が上乗せされていても違和感がないと思います。

 ところが2013年9月当時の書籍の納品書には、納品つまり日本の顧客に販売した会社は、アマゾンジャパンではなく、Amazon.com Int’l Sales,Inc.(Amazon.comの販売子会社)なのです。つまり、「amazon.co.jp」を通じて注文を受け付けた書籍は、米アマゾンが取次店から購入し、日本国内の米アマゾンの子会社、アマゾンジャパン・ロジスティクスの倉庫から出荷しているのです。

 現在のアマゾンジャパンは2016年に、サイト運営と販売を委託されたアマゾンジャパンと、商品の発送などを委託されたアマゾンジャパン・ロジスティクスを合併した会社です。株式会社から決算公告が不要の合同会社になり、ますます実態が見えない秘密主義の会社になっています。

 東京都内のある税務署によると、日本国内にPEを持たない米の事業者は、日本国内で商品を仕入れて日本国内で販売する場合には法人税の納税義務はないが、消費税はPEの有無には関係なく、日本での納税地を定めて消費税の申告をする必要があるという。一方、日本での仕入れ、販売を受託した日本の業者(例えば、アマゾンジャパン)が、米の事業者(例えば、米アマゾン)に対する役務(サービス)の対価として受け取る委託料は、日本に拠点のない非居住者(同)のための役務の提供になり、免税となるらしい。


関連記事

筆者

臺宏士

臺宏士(だい・ひろし) フリーランス・ライター

毎日新聞記者をへて現在、メディア総合研究所の研究誌『放送レポート』編集委員。著書に『アベノメディアに抗う』『検証アベノメディア 安倍政権のマスコミ支配』『危ない住基ネット』『個人情報保護法の狙い』。共著に『エロスと「わいせつ」のあいだ 表現と規制の戦後攻防史』『フェイクと憎悪 歪むメディアと民主主義』など。 

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

臺宏士の記事

もっと見る