メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

葡萄や林檎は気温上昇に耐えられるか

異変が続出! 地球温暖化に悲鳴を上げる農作物

木代泰之 経済・科学ジャーナリスト

 温暖化が想定以上の速さで進んでいる。

 平均気温の上昇を産業革命前に比べて1.5~2度未満に抑えるという目標はほぼ達成不能と見られている。2100年には4度上昇するという予測も出ている。

 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)の調査では、現状の約1度上昇により、すでにほとんどの農作物に何らかの温暖化の影響が現れている。ブドウやリンゴの着色不良、温州ミカンの浮皮、トマトの生育不良、イチゴの花芽分化の遅れ、レタスの結球不良などである。

ブドウは赤熟れする黒色系から青系のシャインマスカットへ

左は着色不良、右は正常な着色=農研機構HPより

 ブドウの着色不良は、「巨峰」「ピオーネ」などの黒色品種でとりわけ顕著である。写真左の「赤熟れ(あかうれ)」という被害が発生し、農研機構は「今後の温暖化進行で被害は更に全国的に拡大する」と予測する。

 各産地も手をこまねいているわけではない。着色する時期が真夏の酷暑期に重なると被害が出るので、ハウス栽培に切り替えて着色期を人為的に早めたり、平地のブドウ畑を気温の低い山の上に移したりしている。

 もし気温が2度上昇すれば、現在3か月間とされる「夏」が4か月にのび、逆に「冬」は3か月から2か月へ短くなる。ハウス栽培への移行では、いずれ対応が困難になるとみられている。

 読者の方は、この数年、スーパーの店頭でシャインマスカットが増えていることにお気づきだろうか。シャインマスカットのような青系品種は着色不良の影響が少ないので、切り替える農家が増えているのだ。

リンゴの栽培適地は北海道、東北北部などに縮小する

 リンゴはどうだろうか。

 現在、リンゴ産地の多くは気温がかなり高い時期に収穫期を迎えており、赤色系は着色不良(緑色や白っぽくなる)が発生している。農水省によると、リンゴ栽培に適する年平均気温は6~14度の範囲で、現在は北海道の一部と本州北半分の広い地域が栽培適地になっている。

 しかし、2040年代には東北南部の全域や中部の平野部まで14度以上になる。結局、日本のリンゴ栽培の適地は青森県や岩手県の山間地、北海道ぐらいになくなるという。

高温下でも濃赤色に色づく新品種「錦秋」=農研機構HPより

 リンゴ生産・消費の縮小を防ごうと、農研機構が2018年に開発したのが上記写真の「錦秋」である。「肉質が緻密で歯ざわりが良く、糖度が高く適度な酸味もあるので、食味が濃厚」が売り物だが、リンゴは品種の切り替えから出荷まで年月がかかる。気温上昇に間に合うかどうかが課題である。

ミカンは皮と果肉が分離する「浮皮」が起きている

 次は冬場に欠かせない温州ミカン。栽培に適した年平均気温は15~18度であり、本州以南の温暖な沿岸部で栽培されている。

 気温上昇の影響は、下の写真左側の「浮皮」という、皮と果肉が分離した状態で現れる。消費者にとっては「皮をむきやすいみかん」だが、専門家は「腐敗しやすい」「食味が悪い」と捉えている。

左が浮皮状態、右が正常なミカン=農研機構HPより

 浮皮は特殊な農薬で軽減できることが確かめられており、農水省はその農薬散布を推奨している。しかし、環境省はIPCC第5次報告書の付属報告書で「2100年には(日本には)作付け適地がなくなる」と述べ、事態の深刻さを浮き彫りにしている。

九州のコメ、耐暑性に優れた「にこまる」を開発

 主食であるコメはどうだろうか。

・・・ログインして読む
(残り:約1528文字/本文:約2957文字)