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見えてきたハッシュタグの「問題点」

本当に人々を団結させるツールになっているのか

小林啓倫 経営コンサルタント

 2011年初頭に「アラブの春」が起きた際、市民がソーシャルメディアを通じてつながり、社会問題の解決に向けて団結するという可能性に関心が集まった。また日本でも、同年に発生した東日本大震災において、ツイッターやフェイスブックを通じた市民間での情報共有が一定の効果をあげたことから、ソーシャルメディアは社会問題に対して草の根的な対応を実現するツールのひとつとして認知されている。

 ソーシャルメディア上において、通常つながっている(ツイッターで言えば「フォロー」している)ユーザーの枠を超え、不特定多数の人々と一時的にコミュニケーションする際に有効なのが「ハッシュタグ」と呼ばれる機能だ。

もともとはユーザーが始めたローカルルール

ニューヨークをデモ行進するオキュパイ運動の参加者たち=2014年9月22日 a katz / Shutterstock.com

 これはメッセージを投稿する際、「#(ハッシュマーク)」を頭に付けた単語を入れておくと、その単語が「タグ」となって、他に同じテーマについて投稿しているメッセージが検索しやすくなるというもの。たとえばウェブサイト「論座」について語りたければ、「#論座」というハッシュタグを入れて投稿すると、論座についての投稿を読みたいと考えている他のユーザーから検索されやすくなり、また自分でも「#論座」が付いている別のメッセージを読んで、他人の意見を知ることができる。

 もともとハッシュタグは、ツイッターのユーザーが、メッセージを検索しやすくするために自ら始めた「ローカルルール」のようなものだった。しかしそれが非常に便利であることを認めたツイッターが、2009年に公式機能として採用(日本語版では2011年から)。その際、ハッシュタグを付けて投稿すると、その単語がクリック可能なリンクに自動変換され、メッセージ上でそれをクリックするだけで同じハッシュタグを含むツイートの検索結果が表示されるようにした。この機能が爆発的に人気を得て、他のソーシャルメディアでも次々に採用され、広く活用されるようになっていった。

 たとえばアラブの春と同じ2011年に起きた「ウォール街を占拠せよ(Occupy Wall Street)」運動(米国の若者が中心となり、政界や経済界に対してデモ等の形で不満を表明するというもので、その後類似の運動が世界に拡散した)では、運動の名前にハッシュをつけた「#OccupyWallStreet」がハッシュタグとして使われ、自然発生的に生まれる抗議活動や各種の集会に大勢の人々を引き付ける役割を果たした。

 前置きが長くなった。こうして誕生から10年が経ったハッシュタグは、いまや同じ興味・関心を持つ他人とつながる強力な機能として認知され、冒頭のような政治的・社会的イシューの解決に取り組む人々が、そのイシューを象徴する単語をハッシュタグとして採用し、それをメッセージに入れてソーシャルメディア上で発信することが当たり前になっている。しかしいま、本当にそれが人々を団結させるツールになっているのかという疑問が持ち上がっている。

先入観を招くハッシュタグ

 カリフォルニア大学アーバイン校のユージニア・ハ・リム・ローとメリッサ・マズマニアンが、ハッシュタグに関する興味深い実験を行い、その詳細を公開している。

 彼女らはオンライン上で1979人の被験者を集め、彼らにフェイスブック上でニューヨークタイムズ紙などの主要メディアの記事を読んでもらった。その際、記事に「#MeToo」(英語で「私も」を意味する”Me Too”が元になったもので、もともとこの言葉は性暴力の被害を受けた女性を支援するスローガンとして使われていたが、2017年に映画プロデューサーのハーベイ・ワインスタインが行ってきたセクハラを告発する際にハッシュタグとして採用され、以後セクハラ一般を告発する際のタグとして定着した)のような、政治的トピックに関するハッシュタグを付けた場合・付けない場合で反応を比較したのである。

サンフランシスコの市庁舎前で「#METOO」と書かれたプラカードを掲げるデモ参加者=2018年1月20日 Sundry Photography / Shutterstock.com

 すると意外な結果が出た。ハッシュタグを付けた形で記事を見せると、人々は

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