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保守党大勝で英・EU交渉はどうなる?

ブレグジットは確実に。今後の交渉は難航するのか

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

保守党が勝ったのは労働党のオウンゴール

 ブレグジットが争点となった英国の総選挙で保守党が圧勝、労働党が惨敗した。

 3年前の国民投票では、離脱と残留の票数の比率は52%対48%、その後の世論調査では、残留派の方がわずかだが上回っていた。今でも英国民の中で離脱と残留は拮抗している。

 選挙戦が始まったときは、どうなるかわからない、保守党も労働党も単独過半数をとれないのではないかという見方があった。それなのに、離脱を掲げた保守党が労働党を圧倒した。

 労働党サイドに立って、いくつか理由を挙げてみよう。保守党の圧勝は、ジョンソンの手柄というより、労働党のオウンゴールに見えるからだ。

 第一に、保守党が離脱を明確に掲げたのに対し、離脱と残留の異なる意見を持つ議員を抱える労働党は態度を決めることができなかった。このため、労働党は残留派の受け皿になれなかった。

 第二に、ブレグジット党は保守党の現職議員がいる選挙区で候補者を立てないとして、早々と保守党とブレグジット党の離脱派連合が成立した。これに対し、態度を決められない労働党は残留を主張する自由民主党との選挙協力に消極的となってしまった。残留派連合は成立しなかった。

 小選挙区制なので、僅差でも他の候補者よりも多くの票を獲得した候補者が当選する。残留派が多数を占める選挙区で、労働党A、自由民主党B、保守党Cの3人の候補者がいて、それぞれの得票が33%、33%、34%なら、離脱派である保守党のCが当選する。

 第三に、英国民のブレグジット疲れである。3年半も堂々巡りをしている政治に早く決めてくれという気持ちになっていた。ブレグジットを話題にしないことを謳ったニュース番組も出るほどだった。

 それなのに、労働党は再度EUと交渉してジョンソンとは別の離脱案をまとめ、それと残留を選択肢とする国民投票を再度実施するのだと提案した。これでは、またいつ決まるかわからないという状態が継続してしまう。

 第四に、ブレグジットで守勢に立った労働党は内政問題に焦点を当てようとした。社会保障の充実とかアピールしたものもあったが、急進的な社会主義者であるコービン党首はインフラ部門の国有化など時代錯誤な提案を行い、逆に反発を招いてしまった。

 最後に、2016年の米国大統領選で民主党がトランプにしてやられたことを、ジョンソンにやられてしまった。

 トランプが勝利した大きな理由は、移民や貿易が仕事を奪ったと主張してこれまで民主党の牙城と言われた中西部のラストベルト地帯の有権者をトランプ支持に転向させたからだった。コービンたちは同じことが自分たちに起きるとは思わなかった。今回労働党はこれまで牙城だったイングランド中・北部の「赤い壁」と呼ばれる地域をジョンソンに奪われた。

 米国の先例がありながら、これへの対策を用意していなかった。米国の民主党も英国の労働党も、鉄とか石炭などの衰退産業の労働者を、それぞれ対立する共和党、保守党に奪われた。

拡大労働党大会最終日に演説するコービン党首=2018年9月26日、英中部リバプール

 しかし、スコットランドでは、残留派のスコットランド民族党が59議席中48議席も獲得し、保守党は敗北している。労働党が自由民主党と残留派連合を作っていれば、結果はどう転ぶかわからなかった。残留を主張し、大きく議席を伸ばすことも予想された自由民主党は、党首も落選するなど、大きく沈んだ。

 今回総選挙をしなくても、EUからの離脱協定案は国会で承認される可能性が高かった。それなのに、ジョンソンは総選挙に打って出るというギャンブルに出た。

 このギャンブルの勝者となったジョンソンは、5年間首相の地位を保つことができる。しかも過半数を大きく上回る議席を単独与党が有する安定政権である。もうメイ首相のように、EUと合意した協定案を3度も議会に否決されるようなことは起きないだろう。

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筆者

山下一仁

山下一仁(やました・かずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1955年岡山県笠岡市生まれ。77年東京大学法学部卒業、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、農村振興局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。10年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。「フードセキュリティ」「農協の大罪」「農業ビッグバンの経済学」「企業の知恵が農業革新に挑む」「亡国農政の終焉」など著書多数。

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