メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

保守党大勝で英・EU交渉はどうなる?

ブレグジットは確実に。今後の交渉は難航するのか

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

次の英国とEUの自由貿易協定交渉

 いずれにしても、これで1月31日のブレグジットは確実になった。

 2020年末までの移行期間(この間英国はEUの関税同盟、単一市場にとどまる)中に、英国とEUとの将来の関係を決める自由貿易協定交渉が行われる。この移行期間は2022年末まで2年間延長できる(2020年7月に英国とEUの合意が必要)こととなっているが、ジョンソン保守党は2020年中に決着させると公約しているので、延長は難しい。

 もし、2020年末までの移行期間の間に合意できなければ、2021年1月英国とEUとの間は無協定状態となり、“合意なき離脱”という状態が発生してしまう。

 これについて、専門家と言われる人たちや一部のマスコミは、通常利害が対立する自由貿易協定の交渉には数年かかる(日・EUの自由貿易協定交渉は4年以上かかった)し、金融サービスという分野もあるので、この交渉は容易ではないとか、1年で決着するとかはありえないなどと主張している。

 11月22日付のFinancial Timesは、二つの違う見方を伝えている。ジョンソン首相やEU貿易担当大臣であるフィル・ホーガンは「英国は46年間もEUのメンバーだったので、2020年の交渉はそれほど時間が必要なものとはならない」との考えを示している一方、欧州委員会の幹部は「この交渉は通商交渉の経験のない英国政府にとって大変な交渉になるだろうし、EU加盟国は欧州委員会に英国に厳しい態度をとるよう要求するだろう」と述べているというのだ。

 どちらの見方が正しいのだろうか?

拡大記者会見するジョンソン英首相=2019年10月17日、ブリュッセル

自由貿易協定交渉で交渉されるもの

 まず、一般的に自由貿易協定交渉では、何が交渉されるのだろうか?

 第一には、モノの貿易を巡る交渉である。

 交渉の基本は、関税の撤廃(少なくとも削減)である。貿易の額や品目について90%以上の関税を撤廃するという一応の目安がある。日本のように高い関税で農業を守ってきた国は、農産物の関税の削減・撤廃に強く抵抗する。

 GDPに占める産業の割合としては、サービス産業が圧倒的に大きく、続いて製造業、農業である(日本では、それぞれ7割、2割、1%)。どの自由貿易協定交渉でも、もっとも政治的に問題となり最後までもめるのは、モノの関税、とりわけ農産物関税の扱いである。

 農業に林業、漁業を加えた産業が各国のGDPに占める割合は、日本1.2%、EU域内で最大の農業国と言われるフランスで1.6%、英国0.6%、世界最大の農産物輸出国であるアメリカで0.9%、オーストラリアでさえ2.6%に過ぎない。

 一国の経済上の重要性と自由貿易協定交渉における重要性は全く別ものである。経済的に大きいからとか、問題の解決が技術的に難しいからという理由で、交渉が難航・長期化するのではない。10月の英国とEUの国境に関するブレグジット交渉も技術的に困難な問題を議論したが、交渉したのは1週間ほどである。

 農業の規模は小さく、その交渉は、関税をどこまで下げるか、輸入枠をどこまで広げるかという単純なものである。それなのに、農業が通商交渉で最も重要な地位を占めてきたのは、農業がこれらの国で政治的に重要だからである。

 各国とも自国の国内政治から譲れるギリギリの線がある。農産物輸出国が、輸入国の農業生産の維持という観点から許容できる防衛線を越えてアクセス拡大を要求するため、難航するのである。通商交渉が難航するのは、合意に達するために、双方が自国内部で国内産業への説得などの利害調整に、多大の時間と労力を要するからに他ならない。

 第二に、サービス貿易についての自由化交渉である。

 サービス貿易の自由化は、他国に与えたと同等のアクセスを与えるという「最恵国待遇の原則」と自国の企業と同等の扱いをするという「内国民待遇の原則」の二つの原則で行われる。WTOでは、モノの貿易については、基本的にはこの原則を必ず守らなければならないが、サービス貿易について相手国にどこまでこれを認めるか、あるいは何を例外として認めないかについては、交渉で決定される。つまり各国に裁量の余地があるということである。

 それ以外に、自由貿易協定には、基準や規格、食品や動植物の検疫措置、政府調達、知的財産権、投資、国有企業などの交渉分野がある。

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

山下一仁

山下一仁(やました・かずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1955年岡山県笠岡市生まれ。77年東京大学法学部卒業、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、農村振興局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。10年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。20年東京大学公共政策大学院客員教授。「いま蘇る柳田國男の農政改革」「フードセキュリティ」「農協の大罪」「農業ビッグバンの経済学」「企業の知恵が農業革新に挑む」「亡国農政の終焉」など著書多数。

山下一仁の記事

もっと見る