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オリックス宮内義彦が薦める「文明の衝突」

政治の怖さは経験しないとわからない。若い人はぜひ現代史を勉強してほしい

諏訪和仁 朝日新聞オピニオン編集部記者

世界を国境ではなく、文明で分ける

拡大宮内義彦さん

宮内義彦(みやうち・よしひこ) オリックス シニア・チェアマン
1935年神戸市生まれ。58年関西学院大学商学部卒業。60年ワシントン大学経営学部大学院でMBA取得後、日綿実業(現双日)入社。64年オリエント・リース(現オリックス)入社。70年取締役、80年代表取締役社長・グループCEO、2000年代表取締役会長・グループCEO、14年オリックスの経営から退きシニア・チェアマンに。総合規制改革会議議長など数々の要職を歴任。現在は一般社団法人日本取締役協会会長のほか、カルビー株式会社、三菱UFJ証券ホールディングス株式会社の社外取締役なども務める。著書に『“明日”を追う【私の履歴書】』『グッドリスクをとりなさい!』『私の経営論』『私の中小企業論』『私のリーダー論』など。

 サミュエル・ハンチントンの「文明の衝突」は、日本で1998年に訳書が出て比較的早い時期に読みました。手元にある2012年発行の20刷には、「宮内義彦推薦」の帯がかかっています。「この本はおもしろい」といろんな所で話したのだと思います。当時、それを聞いた編集部から推薦文を書いてほしいと言われたものでしょう。

 この本がおもしろい理由をいくつか挙げます。

 私は、歴史と、こういう地政学みたいな分野の本が元々好きなんです。歴史や地政学の本は、どうしても戦争の話になりがちです。国同士の対立ということを考えると、私の世代で言えば、米ソというまったく違うイデオロギーによる対立があり、イデオロギーが地政学上の一番大きな問題かなと思っていました。

 ところが、この本を読むと、別の観点なのです。地域特有の文明が、もっと厳しく対立を煽るというのです。このように、世界を国境ではなく、文明で分けるという見方には目を見開かれました。

 文明という区切りで世界を見るのは、この本で初めて教えられたものでした。それが一つ目です。ちなみに、7つの文明とは、西欧、東方正教会、中国、日本、イスラム、インド、ラテンアメリカで、これにアフリカを加えると8つで、これらが世界の主要文明だと言っています。

日本の孤立化を避けることが国策として非常に重要

 二つ目は、この本で言わんとしているのは、大まかには、西欧文明と非西欧文明の対立が非常に厳しくなるだろうということです。なかんずく、西欧文明とイスラム文明は相いれないと予言的に述べています。加えて、アジアが台頭してくるとも言っていますね。

 三つ目としては、7つか8つに分類している文明の中で、日本文明というのは、どことも似ていない、独自の文明であると分けています。3分の1くらいはうれしいなあという気持ちがありますが、残りの3分の2くらいは「これはえらいことだ」という感じがしました。

 そう感じたのは、ほかの文明と異なっているために、世界から理解してもらえないのではないかということです。

 ざっと言えば、日本の人口は1億2千5百万人で、世界が73億人なら、1.7%ですよね。この中で日本のことを世界に分かってもらうというのは大変なことです。日本が世界で孤立しないようにすることが国策として非常に重要だと思うのです。ある意味で危機意識ですよ。

 とはいえ、日本文明は一つの文明として区切られ、7つの文明の一つと書かれていたことには、我が意を得たりという納得感がありました。私は、日本は中国の亜流と言われるのではないかと思っていましたが、仕事などで中国の人たちと付き合ううちに、中国人と日本人は全く似ていないなと実感していました。この本には、「日本はどこにも似ていない」と書いてあり、まさにその通りだと思ったのです。

 我々、日本人のフィーリング、感性は、ほかのどの国にも似てないんじゃないでしょうか。この感性というのは、神道みたいなもの、自然を全部崇拝するような原始宗教ですかね。もう一つは日本の仏教でしょう。仏教は日本に伝わって、大きく変化して、我々のフィーリングに奥深く入っていると思うのです。

 私に言わせれば、日本の仏教は「究極の宗教」に変化しています。日本の仏教は大乗仏教と言われています。その大乗仏教でも行き着く所まで行ったのが、親鸞だと思います。親鸞の浄土真宗は、仏を信じ「南無阿弥陀仏」と唱えれば救われるといいます。しかも、善人が救われるのは当たり前で、悪人も救われる。となれば、多くの宗教の基礎となる戒律が小さなウエイトにとどまり、争う種を縮小していっています。

 宗教としては極限まできていると思います。一方で、キリスト教やイスラム教はそうではない。守るべきことや、してはならないことがたくさんあります。日本へ仏教が伝来して以来大きく変化したのは、日本人の持つ感性の影響が大きいのではないでしょうか。これはやはり、日本の自然崇拝のような神道の考え方から影響を受けているのではないでしょうか。

 禅では、すべては空だといいます。すべては空という宗教は、例えば西欧の宗教観からすればありえないでしょうね。

 こんな空とか、虚無感とかは下手をすると、もう生きるのは嫌だとかいうことになりますが、そうはなりません。ニヒリズムにならない虚無感。だから、うつせみのごときこの世も、みんな大事に生きようやないかという人生観が生まれる。

 桜や花火、季節の移ろいのはかなさを愛でるのも根っこは同じことです。これはすごいことで、こんな人生観が日本の社会を作っているのだと思います。こういうことが日本の文明を形作っているのでしょう。

 そのような意味では、世界中で同じようなことを考えている文明はなく、変わっているという見方をされるかも知れません。

 このような人生観、宗教観は、世界に貢献できると思います。ただでさえはかない命を、宗教や思想、信条の違いで争って失うようなことはやめようと言いたいのです。私たちは世界で起こっている争いに対して提言ができるのではないでしょうか。

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筆者

諏訪和仁

諏訪和仁(すわ・かずひと) 朝日新聞オピニオン編集部記者

1972年生まれ。1995年に朝日新聞社入社、東京経済部、大阪経済部などを経てオピニオン編集部記者。

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