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オリックス宮内義彦が薦める「文明の衝突」

政治の怖さは経験しないとわからない。若い人はぜひ現代史を勉強してほしい

諏訪和仁 朝日新聞記者

「日本文明は強い所につく」という予言

 この本は、西欧文明とイスラム文明の対立激化を予想したように、「予言書」とも言われています。

 その後の世界をずっと見ていると、その通りになり、なるほどなあと思うこともあれば、そうならなかった部分もあります。両方ありますが、文明というもので物事を見ると、分かりのいい部分もかなりあるという気がしますね。

 こんなことも予言しています。日本文明というのは強い所につくので、初めはヨーロッパ、イギリスと同盟を結び、戦後はアメリカの庇護下にある。そのうち中国が強国になったら、中国につくだろうというんですね。今の米中の対立も予言しており、やはりたいした本だと思うのです。

 この10月に中国が建国70年を迎えました。アメリカと中国の対立がきつくなればなるほど、両陣営から日本の取り合いが始まるのではないでしょうか。日本を取り込んだ方が相当有利でしょう。

 日本人の大多数はおそらく、アメリカと一体感を持っていると思いますが、それがそのまま続くかどうか分かりません。それは、中国とアメリカがこれからどのように変化するかによって、変わるんだろうと思います。このことは、今の若い人たちがよく考えないとけません。

 中国は2049年の建国100年で、経済力でアメリカを抜くことを目標にしていますが、実現できるかには疑問もあります。中国は急速に高齢化社会になっていて、経済成長が衰えていくという見方もあります。仮に国全体のGDPでアメリカを追い越しても、一人当たりのGDPにすれば、まだアメリカの方が大きいかも知れません。

 日本がそんな中国と組むかと言えば、現状を見るとどうかという気もします。一方で、アメリカが今のトランプ大統領のようにとにかくアメリカファーストで、もし日本を邪険に扱うようであれば、考え直す必要が出てきて、アメリカだ、中国だと国論が割れる可能性もあります。

 確かに日本は戦後、そんなことを考えなくてよかった時代が長かったと思います。それがもう終わりつつあるのは間違いありません。ただ、日本がアメリカにつく、中国につくということを一生懸命考えるのではなく、彼らがどう変化するかによって、我々も、彼らの変化によって一緒に考え行動していく先が自然に変わっていくんじゃないでしょうか。日本人が自分で考えて、選んでいくしかないと思うのです。

米中の摩擦は始まったばかり

 西欧文明として、ヨーロッパとアメリカをひとくくりにしていますが、本が出てから20年余り経った今、僕はヨーロッパとアメリカとは離れていきつつあるのかなということを考えたりします。両者の価値観が変わってきたのではないかと思うのです。

 原因は分かりませんが、ヨーロッパの国々はほとんど社会民主主義でしょう。アメリカは今、がちがちの資本主義です。原理的な資本主義で社会が回っているように思いますし、宗教も大きな地位を占めている。また人種も白人国とはいえない多様性を持ち始めています。

 このままいくと、西欧でひとくくりにしてきた両者は、それぞれ相当違った文明になっていくのではないかということです。

拡大宮内義彦さん
 米ソの対立が終わり、今はアメリカと中国の通商的な対立が激しくなっています。

 米ソ対立のときは、両陣営の経済的な結びつきはほとんどなく、世界の通商的なつながりは2ブロックに分かれていました。ソ連側の経済ブロックは小さく、自滅していきました。

 グローバル化は世界が一つにつながり、米中も両者がつながっていて1ブロックだと思っていたら、米国がそのつながりを壊し始め、その行き着く先は再び2ブロック化しつつあるのではないでしょうか。だから、米ソ冷戦が終わり、グローバリズムが席巻した1990年以降の世界が、また大きく変化して、二つのブロック経済になるという方向に走り始めているように見えます。

 本当に二つに分かれるかどうかは分かりませんが、その方向に走り始めたのは間違いないですね。

 米中の摩擦は始まったばかりだと、私は思います。戦争のようなひどいことはしないけれども、経済的には別れていくという方向へ行くと思います。それでも、アメリカは経済が悪くなったら、仲良くしようと言い始めるかも知れません。

 ひょっとしたら、中国としては、米大統領は今のトランプ氏である方がやりやすいと思っているという見方もあります。今後の大統領は中国に対し、トランプ氏よりもっと厳しく向き合ってくるかもしれません。トランプ氏は、中国との関係もディールだと思ってやっているわけで、分かりやすい。

 だから、中国にしてみれば、今のうちにトランプ氏とディールするのがいろんな意味で一番有利だという人もいます。アメリカの世論は中国に対して自由主義、民主政治に転じるべきだという思想を持っていますし、人権問題にも手厳しいですから。

 この本では、そこまで示唆してないと思いますが、この本によっていろいろ考える力がついてくるということだと思います。今後のことについては何から何まで分からないけれども、いろんな可能性を考える一つの柱にこの本での考え方が役立つと思います。それが本の影響というものではないですか。

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筆者

諏訪和仁

諏訪和仁(すわ・かずひと) 朝日新聞記者

1972年生まれ。1995年に朝日新聞社入社、東京経済部、大阪経済部などを経験。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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