山口智久(やまぐち・ともひさ) 朝日新聞オピニオン編集長代理
1970年生まれ。1994年、朝日新聞社入社。科学部、経済部、文化くらし報道部で、主に環境、技術開発、社会保障を取材。2011年以降は文化くらし報道部、経済部、特別報道部、科学医療部でデスクを務めた。2016年5月から2018年10月まで人事部採用担当部長。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
「セクシー」な温暖化対策を。環境相として「カーボンプライシング」を打ち出せ!
その小泉環境相の演説が批判された。国際NGO「気候行動ネットワーク(CAN)」は、石炭火力の削減策に踏み込まず、2030年の温室効果ガス排出量を13年比で26%削減するという目標をさらに深掘りすることを表明しなかったことで「化石賞」に選んだ。
批判されたことについて小泉氏は、期待の裏返しだと語ったと報じられている。その通りだと思う。
化石賞(Fossil of The Day、本日の化石)は、NGOからみて交渉を阻んでいる国や、地球温暖化対策に消極的とみなした国を選んで、COP会場の通路などで毎日のように発表する。厳密な基準はなく、効果的なタイミングをみて、その国を批判したら交渉や温暖化対策が前進するかもしれないという期待を込めて担当者たちが話し合って決めている。最近は、逆に頑張っている国を称えるRay of The Day(本日の光明)という賞も時々発表している。
たかがNGOと思うなかれ。交渉を見守るNGOは、人材に乏しい途上国のアドバイザー役になっていることが多い。欧州では、政府とNGOの間を転職して行ったり来たりしている人もいる。博士号を取得しているスタッフも珍しくない。それなりに影響力がある。
発表は糾弾調ではなく、仮装してジョークを交えながらなされる。長丁場の交渉では、ちょっとした笑いを提供してくれるアトラクションになっている。交渉官たちも、化石賞に選ばれたからと言って深刻に受け止めるわけでもない。アメリカやオーストラリアが常連で、昨年からはブラジルもよく受賞している。
化石賞は、期待の裏返しなのだ。だから、アメリカやオーストラリアに比べたら、交渉ではあまり目立たない日本はそれほど受賞しない。期待されてないからだ。
バッシングもされない、パッシング。
ところが、小泉氏は演説で「COP25までに、石炭政策については、新たな展開を生むには至らなかった。しかし、これだけは言いたい。私自身を含め、今以上の行動が必要と考える者が日本で増え続けている」と述べた。石炭火力に対する批判についてまったく触れないこともできたのに、あえて言及したのだ。
また、COP25に参加するにあたって、小泉氏は石炭火力の輸出を原則認めない方針を打ちだそうとしたが、経済産業省や官邸との調整がつかず見送ったことが報じられている。大臣が何かをやろうとして官邸につぶされたことが漏れ聞こえてくるのは、安倍政権下では珍しいことだ。