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AIがリアルタイムで価格を変える時代が始まった

市場の「見えざる手」が見える? 「ダイナミックプライシング」が変える未来

原真人 朝日新聞 編集委員

AIを使ってリアルタイムで価格を変える

 「ダイナミックプライシング」という言葉をご存じだろうか。世の中の価格を劇的に変えてしまうかもしれない、新たな値決めの手法である。

 AI(人工知能)技術を使って、チケットが購入される時期、需要、市況、天候などのビッグデータを活用し、リアルタイムで価格を変えていく。

 米国で40年前に誕生したこの手法は近年、コンピューターやAIの飛躍的な性能向上によって実用化がいっそう容易になった。スポーツや音楽イベントのチケット販売で急速に実績をあげている。

 日本でも今年から本格的に導入が広がった。この手法が広がれば消費者の選択肢を広げ、購買の機会を増やせる可能性がある。一方で、貧しい人々には不利になるという指摘もある。

 日本の興行ビジネスの世界にダイナミックライシングの手法を初めてもちこんだキーマンに、同システムと消費の未来展望を聞いてみた。

 ダイナミックプラス社。ダイナミックプライシングを日本の興行の世界に導入するために2018年6月、三井物産、ヤフー(現Zホールディングス)、ぴあの3社が出資して設立した会社だ。

 同社立ち上げの中心になったのは社長の平田英人(45)である。三井物産の商社マンとしてニューヨークに駐在していたとき、ダイナミックプライシングの存在を知ったという。日本市場に導入する必要性を感じ、帰国後に急ぎプロジェクトを立ち上げた。

 同社はいま、チケット販売では日本で唯一のダイナミックプライシング・サービスを提供する専業事業者として普及に努めている。

拡大ダイナミックプラス社の平田英人社長

開発したのはアメリカン航空

 ダイナミックプライシングが世界で初めて導入されたのは1977年。導入したのは大手航空会社のアメリカン航空だった。

 そのころ航空業界は安売り航空会社の出現で大手の経営が揺らいでいた。そこでアメリカン航空が競争力維持のため考案したのがこの新しい柔軟な価格決定システムだった。

 それまでの航空運賃には空席がたくさんあっても柔軟に価格を割り引ける仕組みはなかった。たとえば100人乗りの航空機に30人しか乗客がいなくても、そのまま飛ばして70人分のチケットの販売機会を丸々損していた。

 アメリカン航空はこのシステムの導入で販売機会を逃さなくなり、ライバル航空会社に対し優位に立った。ライバル会社が価格競争の激化で淘汰されていっても、同社は生き残ったのである。

 1990年代後半になると、米国ではホテルや旅行産業でも同様のシステムが採用されるようになった。2009年には4大スポーツ(野球、バスケットボール、アメリカンフットボール、アイスホッケー)や演劇のチケット販売にも広がっていった。

 さらに2010年以降にはアマゾンに代表される電子商取引の分野に採り入れられ、近年ではウーバー・テクノロジーズなどの自動車配車料金や、民泊のAirbnb(エアビーアンドビー)など新産業で活用されている。ここ数年は音楽興行、小売業にも採り入れられてきた。

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筆者

原真人

原真人(はら・まこと) 朝日新聞 編集委員

1988年に朝日新聞社に入社。経済部デスク、論説委員、書評委員、朝刊の当番編集長などを経て、現在は経済分野を担当する編集委員。コラム「多事奏論」を執筆中。著書に『日本銀行「失敗の本質」』(小学館新書)、『日本「一発屋」論 バブル・成長信仰・アベノミクス』(朝日新書)、『経済ニュースの裏読み深読み』(朝日新聞出版)。共著に『失われた〈20年〉』(岩波書店)、「不安大国ニッポン」(朝日新聞出版)など。

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