メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

AIがリアルタイムで価格を変える時代が始まった

市場の「見えざる手」が見える? 「ダイナミックプライシング」が変える未来

原真人 朝日新聞 編集委員

松井秀喜の引退試合で

 平田がダイナミックプライシングの意義について確信を深めたのは、三井物産の商社マンとしてニューヨークに駐在していた2013年7月28日のことだ。

 米メジャーリーグで前年オフに引退したばかりの松井秀喜がその日、かつて在籍したニューヨーク・ヤンキースと「1日契約」を結んで本拠地ヤンキースタジアムで引退セレモニーをすることになっていた。

 日本人プレーヤーとしてメジャーで大活躍し、名門ヤンキースに引退セレモニーを開いてもらうまでになった松井の最後の晴れ舞台。

 平田はこれをどうしても小学1年生の長男に見せてやりたかった。それも、できれば手の届くような場所から――。

 松井をもっとも間近で観ることができる観客席は、ヤンキースタジアムの1塁ベンチ裏だ。選手と目が合うようなその場所にいるファンには、ヤンキースの選手たちがときどきコミュニケーションしてくれることもあった。

 平田がチケット価格を調べると、最もいい最前列席の値は850ドル(当時のレートによる円換算で約8万5000円)。これにはさすがに手を出しにくい。一番後ろの席なら3ドル(同300円)でも観られる。だがそれでは松井を遠目で眺めるだけになる。

 席ごとの価格を調べていくと、最前列から2つ後列の席に500ドル(同5万円)の値がついていた。平田は「松井選手の歴史的な日の姿を目の前で観る体験価値を考えれば、このくらいなら高くない」と考えた。そして長男と自分の2人分のチケットを買い求めた。

拡大始球式を終え、ボールを受け取る松井秀喜さん ヤンキースで引退試合=2013年7月28日、ニューヨーク

 松井の引退試合を興奮のなかで楽しんだあと、平田はその体験を可能にさせてくれたダイナミックプライシングという仕組みに興味を抱いた。そこで日米の野球ビジネスの現状を調べた。

 ダイナミックプライシングを導入したメジャーリーグと、日本のプロ野球リーグ。1995年当時にはどちらも同じくらいの集客規模、同じくらいのチケット収入規模と言われた。いずれも放映権料とスポンサー収入だのみの経営だった。ところが米メジャーリーグはその後、ダイナミックプライシングを導入し、チケットの販売機会ロスを著しく減らしていた。その結果、チケット収入が大幅に伸び、有料来場者数も増やしていた。

 サッカーについても調べると、同じような状況があった。1995年当時、イングランド・プレミアリーグと日本のJリーグは同じくらいの集客力と言われていた。だがその後、プレミアリーグがダイナミックプライシングを採用すると、チケット収入が増え、日本より集客数も多くなっていったという。

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

原真人

原真人(はら・まこと) 朝日新聞 編集委員

1988年に朝日新聞社に入社。経済部デスク、論説委員、書評委員、朝刊の当番編集長などを経て、現在は経済分野を担当する編集委員。コラム「多事奏論」を執筆中。著書に『日本銀行「失敗の本質」』(小学館新書)、『日本「一発屋」論 バブル・成長信仰・アベノミクス』(朝日新書)、『経済ニュースの裏読み深読み』(朝日新聞出版)。共著に『失われた〈20年〉』(岩波書店)、「不安大国ニッポン」(朝日新聞出版)など。

原真人の記事

もっと見る