吉岡友治(よしおか・ゆうじ) 著述家
東京大学文学部社会学科卒。シカゴ大学修士課程修了。演劇研究所演出スタッフを経て、代々木ゼミナール・駿台予備学校・大学などの講師をつとめる。現在はインターネット添削講座「vocabow小論術」校長。高校・大学・大学院・企業などで論文指導を行う。『社会人入試の小論文 思考のメソッドとまとめ方』『シカゴ・スタイルに学ぶ論理的に考え、書く技術』など著書多数。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
二重生活で得られる利得とは?
もちろん、10年前のバリでは、インターネットにアクセスすること自体が大変だった。最初は近くのネットカフェまで車で出かけた。それから、隣村から延々とジャングルの中2km電話線を引いた。
電柱を立てる費用もなかったので、椰子の木に巻き付けたり竹竿に結んだり、呆れるほどのローテク。おかげで、大雨が降る度にケーブルが切れて、電話会社の作業員を呼び出して引き直す羽目になった。接続ルーターも、大きな雷が鳴ると過電流で壊れるので、2カ月にいっぺんは取り替える。
それでも、ネットにアクセスできることで、企画書や原稿、添削を送ることができた。それどころかDTP化した著書だって送れるし、スカイプを使えば東京、ニューヨーク、シンガポールを結んで打ち合わせもできる。検索すれば、たいていの情報も手に入る。福島や九州とスカイプで個別授業もできる。ときどき、電波が乱れることさえ我慢できれば、ほぼ日本にいるときと同様に活動できるようになった。
その意味で言えば、今更ながらインターネットとは偉大な発明だったと感じる。たしかに、その効果は、当初「これで人間は都市に集住する必要がなくなる」と喧伝されたほどではなく、相変わらず我々は都市に寄り集まって暮らしている。それでも、ここ10年で、右に述べたような仕事環境も工夫すれば実現できるようになった。旅先の方が集中できるなら、これほどいい仕事法はない。
こんな風に場所を移動しながら、仕事するスタイルは、数年前から「ノマド」と呼ばれるようになっている。「放浪の民」という意味らしい。場所を決めずに仕事できるというスタイルが当初は斬新に感じられたようだが、所詮都市生活の中での話なので、日本では、カフェとか喫茶店とかで、WiFiを使いながら仕事して小金を稼ぐというややけち臭いスタイルに落ち着いた。
ここバリ島ウブドでも、そういう「ノマド」たちは大勢いるが、日本よりちょっとばかりスケールが大きい。HubUbudという全体が竹で出来た共有オフィスもあって、そこに欧米人の若者たちが集まって、ネットを駆使して株のトレーディングなどをしている。
そういえば、利益と社会貢献を両立させる「社会企業家」が世界で最も多いのはウブドだとか。物価が比較的に安いので、必死になって稼がなくても、ある程度の生活はできる。だから、余裕を持って社会的意義のある「仕事」もできるのかもしれない。私が若かったら、週に3日ぐらいネットで株式投資でもして、後はゆったりと「環境運動」でもしながら暮らすのもいいかもしれない。
もっと高齢者向きのやり方としては、金利生活も比較的手軽にできる。何せ、こちらの定期預金の金利は7%以上のところもある。預金するのに手数料が必要になる、というどこかのバカな「衰退途上」国よりよっぽどましである。1500万円も預けておけば、贅沢さえ言わなければ何とか生活できそうだ。もっとも、それをねらって、事情を知らない日本人相手にあやしげな投資を勧める会社も暗躍