老いにあらがう時代~豊かなエイジング社会を
「死」と正面から向き合うことで、よりよく生きるサクセスフル・エイジングに
土堤内昭雄 公益社団法人 日本フィランソロピー協会シニアフェロー
「老い」に寄り添うフレンドリー・エイジング
不老長寿は人間が長い間抱いてきた夢だが、長寿時代を迎えた今日も、多くの人が健康で長生きしたいと願うことに変わりはない。多くの人が実年齢より若く見られたいと思う。
しかし、加齢にどうあらがっても人間の「老化」を防ぐことはできない。
心身ともに「若さ」は重要だが、それを過大評価すると高齢期を豊かに生きることを阻害する。老いを受容することは自尊心との闘いかもしれないが、「老化」と上手に向き合い、フレイルという虚弱な状況のプロセスを自然体で受け容れることが必要だ。
身体的老化を防ぐことが困難でも、精神的な若さを保つことは可能だ。何事にも興味を持ち、あらたなことにチャレンジする気持ちや瑞々しい感受性が豊かな人生を創り出す。人生はどれだけ長く生きるかではなく、どのように生きるかが大切なのだ。
今やスポーツジムも高齢者であふれている。健康寿命を延ばすことはきわめて重要だが、虚弱になったら人生終わりではない。長い人生をまっとうするためには、加齢にあらがうアンチ・エイジングではなく、「老い」に寄り添うフレンドリー・エイジングが求められる。
多死社会の「人生会議」

厚生労働省が作った人生会議のポスター=同省ホームページから
人生100年時代を迎え、その長い人生においてどのように幸せな歳を重ねるかに関心を持つ人も多い。日本は高齢化率が28.4%と世界最高で、平均寿命も世界有数の長寿国だ。しかし、それは同時に年間136万人もの人が亡くなる「多死社会」でもある。
2018年の主な死因は、第一位が悪性新生物(がん)、第2位が心疾患、第3位が老衰だ。
長寿社会になり死因として老衰が増えている。医療も急性期から慢性期の比重が高まり、患者の生活の質(QOL)にとって、医療と介護の連携がますます重要になっている。
厚生労働省は、だれもが望む終末期医療を受けられるよう「人生会議」を提唱している。それはACP(アドバンス・ケア・プランニング)という「もしものときのために、自分が望む医療やケアについて、前もって考え、繰り返し話し合い、共有する取組」の愛称である。政府は、11月30日(いい看取り、看取られ)を人生の最終段階における医療・ケアについて考える「人生会議の日」に決めた。
今年11月、厚労省は「人生会議」の普及・啓発を図るためのPRポスターを製作したが、患者団体など多くの人から批判が出て、自治体への配布を中止した。ポスターデザインが暗いイメージで、ACPの趣旨にもそっていなかったからだ。
しかし、5年後には高齢者の5人にひとりが認知症になる時代には、事前に自分の最期に対する意思を明らかにするACPの取り組みはきわめて重要だ。