木代泰之(きしろ・やすゆき) 経済・科学ジャーナリスト
経済・科学ジャーナリスト。東京大学工学部航空学科卒。NECで技術者として勤務の後、朝日新聞社に入社。主に経済記者として財務省、経済産業省、電力・石油、証券業界などを取材。現在は多様な業種の企業人や研究者らと組織する「イノベーション実践研究会」座長として、技術革新、経営刷新、政策展開について研究提言活動を続けている。著書に「自民党税制調査会」、「500兆円の奢り」(共著)など。
安倍政権で「労働分配率」は急落。企業の「内部留保」は歴史的高水準
いろいろな子育て支援策を実施しても、少子化に歯止めがかからない。
厚生労働省が年末に発表した2019年の出生数は86万4千人で、初めて90万人を下回った。終戦直後の1947年(270万人)に比べ3分の1の水準だ(下のグラフ)。
この結果、死亡数が出生数を上回る「自然減」が51万人に達した。毎年「鳥取県」が一つ消える計算だ。合計特殊出生率(1人の女性が生む子供の数)は1.4前後と低迷したままである。
出生数はなぜ落ち続けるのか。
国立社会保障・人口問題研究所の調査(2015年)が明快に示している。理想とする数の子供(平均2.3人)を持たない理由を夫婦に聞くと、圧倒的に多いのは「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」――30歳前後の夫婦は80%、49歳までの合計でも56%がそう答えている。
つまり、経済的に余裕があれば生みたいが、実際はそうではないから生まない、という構図である。それなら行政の子育て支援をもっと増やせばよいという議論になるが、当然、財政には限界がある。
本稿では、もっと根本的な問題、すなわち夫婦の経済的な余裕度を決める労働分配率と実質賃金、一方で463兆円という歴史的高水準にある企業の内部留保について考えたい。
そこを改善しなければ、いくら子育て支援策を投入しても出産・育児のモティベーションは高まらないからだ。
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