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続・あなたの知らない農村~酪農は過重労働?

酪農は保護者が必要なよちよち歩きの乳児ではない。政府が補助すべき分野はほかにある

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

労働時間当たりでも高い農業所得

 畜産のように規模が大きい農家が多数を占める場合では、農家経営や農作業は複数の従事者で行われることが多く、またそれぞれの農業従事者が均等に作業を行っているわけではない。したがって、他産業の勤労者所得と農家所得を単純に比較することは適当ではないかもしれない(ただし、酪農(100頭以上)や養豚(2000頭以上)の大規模農家は家族3人が働いている(生産費調査)ので、4200万の農業所得の場合一人当たりは1400万円となる。一家のうち3人もこのような所得を挙げている家計は、東京でも極めて少ないだろう)。

 このため、個別経営(法人経営を除く)の家族労働一時間当たり農業所得を他産業の単位時間当たりの給与(時給)と比較してみよう。

 酪農では、全国平均2509円(3007円)、北海道では平均3050円(3778円)、100頭以上層4647円(5256円)、都府県では平均2069円(2488円)、100頭以上層5763円(7540円)である。

 肉牛では、繁殖牛1457円(1982円)、肥育牛2517円(2628円)、養豚では、平均2554円(4326円)、2000頭以上層5531円(1万2804円)となっている。いずれもカッコ内は前年2017年の数値である。

 養豚農家の2017年の数値は異常に高い。これは上述のとおり、豚肉や飼料の価格変動に影響を受けやすいことを示している。また、稲作では、20~30ヘクタール層では3194円、30ヘクタール以上層では4330円となっている。

 他産業はどうだろうか?

 農業県の最低賃金(時給)は、北海道が861円と比較的高いものの、東北(宮城、福島を除く)、九州(福岡を除く)は790円である。派遣社員の平均時給は1500円とされる。また、2019年の民間平均年収を平均勤務時間2000時間で除すると、時間あたり2205円である。

 畜産農家の時給は、繁殖牛を除いて、民間平均と同程度か、それを上回っている。大規模の酪農や養豚では、民間平均の倍以上だ。最低賃金を下回るというのであれば、何らかの農家救済対策が必要だろうが、繁殖牛ですらこれを大きく上回っている。

 つまり、所得の観点からは、農家保護政策は必要ないのだ。

拡大Kiyota/Shutterstock.com

飛躍的な規模拡大

 古い農業しか知らない人は、間違いではないかと思われるかもしれない。

 しかし、畜産は農業の中では、最も工業に近い分野である。工業と同様、技術進化や投資によって、畜産は過去半世紀ほどの間に目覚ましい変貌を遂げている。10年前の知識でさえ、今では時代遅れになっているのだ。

 畜産については、規模拡大が順調に進展した。1965年養豚農家戸数は70万戸、飼養頭数398万頭、一戸当たり平均飼養頭数は5.7頭に過ぎなかった。

 今では全国にわずか4000戸しかいない養豚農家が900万頭の豚を肥育している。160万戸程度いると思われる稲作農家に比べると、きわめて少数の農家である。

 しかも、この4000戸が183万トンの豚肉消費量のうち90万トンを生産している。自給率は49.2%である。一戸当たりの平均飼養頭数は、1965年の372倍、2119頭にも達する(いずれも2019年2月現在)。一農家が2000頭以上の豚を肥育している姿は、容易には想像できないだろう。

 酪農でも、わずか1万5000戸の農家が133万頭を飼養し700万トンを超える生乳を生産している。一戸当たり平均飼養頭数は1965年3.4頭から2019年88.8頭へ拡大した。この50年ほどで酪農家戸数は25分の1に減少し、生乳生産は4倍ほど増加した。

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筆者

山下一仁

山下一仁(やました・かずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1955年岡山県笠岡市生まれ。77年東京大学法学部卒業、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、農村振興局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。10年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。20年東京大学公共政策大学院客員教授。「いま蘇る柳田國男の農政改革」「フードセキュリティ」「農協の大罪」「農業ビッグバンの経済学」「企業の知恵が農業革新に挑む」「亡国農政の終焉」など著書多数。

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